「目線より低い家具を」と言われますが、その目線は何センチでしょうか
部屋を広く見せる方法を調べると、どのページにも同じことが書いてあります。家具は目線より低くしましょう、視界が抜けて広く感じます、と。理屈はよくわかりますし、実際そのとおりだと思います。ただ、読み進めてもその「目線」が床から何センチなのかが、どこにも書いていませんでした。
数字がないと困るのは、買うときです。売り場に並んでいるシェルフには81.5cmや121cmといった高さが書いてあります。目線より低いかどうかを判断するには、目線の側にも数字が要ります。ところが調べた範囲では、上位に出てくるページのどれも数字を出していませんでした。
しかも書いてあることが食い違っていました。あるページは「重心を低くして、できるだけ低い位置にモノをまとめると視界が開ける」と書いています。別のページは「床にどっしり接地するロータイプの家具は、意外にも部屋を狭く見せがち」と書いていました。
低くしろと言い、低いと狭く見えるとも言う。どちらも目線の高さを数字で置いていないので、読む側には確かめようがありません。そこで、日本産業規格(JIS)の原文から数字を出してみます。結論を先に言うと、目線は1つではなく4つあり、いちばん下といちばん上で805mmちがいました。

「目の高さ」は、JISでは2つの項目に分かれています
人体の寸法の測り方は、JIS Z 8500:2002「人間工学-設計のための基本人体測定項目」という規格で決まっています。ISO 7250:1996 をもとにした規格で、身長や座高と並んで「目の高さ」も項目として立っています。ただし1つではなく、姿勢ごとに分かれていました。
まず立っているときの項目です。
5.2.3 外眼角高(eye height)
定義:床面から外眼角点までの鉛直距離。
次に、すわっているときの項目です。
5.3.2 座位外眼角高(eye height, sitting)
定義:水平な座面から外眼角点までの鉛直距離。
外眼角点というのは、目の外側で上下のまぶたの縁が接する点のことです。同じ「目の高さ」でも、立位は床から、座位は座面から測ると規格に書き分けられています。
測定器具の項にも根拠がありました。「体表上の測定点と、床面や座面のような測定基準面との間の直線距離を測定するために、アントロポメータを用いる」とあり、基準面が2つあることが本文にはっきり書かれています。
わたしはここを取り違えて、420mmまちがえました
正直に書いておきます。この記事を書きはじめたとき、手元のメモには「座位眼高 735〜785mm が境界線。これを超える家具で囲むと座ったとき閉じる」と書いてありました。わたしはこれを、床から735〜785mmのことだと思い込んでいました。80cm弱の棚がちょうど座ったときの目線、という理解です。
計算が合わないことに気づいたのは、規格の原文を開いたときでした。座位の値は、座面から測っています。いすの座面が床から420mmあるなら、床から測った目線は420 + 785 = 1205mm になります。思い込んでいた785mmとは、ちょうど座面の高さのぶんだけずれていました。
念のため確かめると、この規格には 5.3.11 座面高(足底支持面から水平な座面までの鉛直距離)という項目も別に立っていました。座面の高さが独立した測定項目として存在すること自体が、床からの目線を出すには2つを足す必要があることの裏づけになります。手元のメモのほうが間違っていたわけです。
眼高の実数値は、Online Anthropometry(City University of Hong Kong)による座位外眼角高 735〜785mm、外眼角高 1425〜1540mm を使っています。ただしこのデータベースには一次調査機関と調査年の記載がなく、孫引きの可能性がありますので、「〜とされる」値として扱います。
日本の一次資料もあたりました。人間生活工学研究センターの「日本人の人体寸法データベース 2004-2006」には、項目169として座位外眼角高が確かに存在します。ただデータベース本体が有料で、平均値そのものは確認できませんでした。わかった範囲だけを書きます。
床から測ると、目線は4段階になります
座面高を足すと、床から測った目線が出ます。すわり方ごとに並べるとこうなりました。
| すわり方 | 座面の高さ | 床から測った目線 |
|---|---|---|
| 床に直接すわる | 0 mm | 735 〜 785 mm |
| 座椅子・ローソファ | 200 mm | 935 〜 985 mm |
| ソファ | 400 mm | 1135 〜 1185 mm |
| ダイニングチェア | 420 mm | 1155 〜 1205 mm |
| 立っている | — | 1425 〜 1540 mm |
座面高は販売店の目安によります。ダイニングチェアはテーブルとの差尺25〜30cmから逆算して40〜42cm(家具蔵)、ソファは40cm前後が日本では定番のサイズ感(a.flat)とされています。いずれも規格ではなく、販売の現場の目安です。
ここでいちばん効いてくるのは、床座と椅子座の差が420mmあることでした。同じ「すわっている」でも、床にすわるか、いすにすわるかで目線が40cm以上ちがいます。しかも差はぴったり座面の高さになります。当たり前の引き算なのですが、家具の高さを考えるうえではこの40cmが決定的でした。
図を描いてみて気づいたことがもうひとつあります。ソファ(1135〜1185)とダイニングチェア(1155〜1205)は、帯がほとんど重なっていました。すわる家具のちがいはあまり効かず、効いているのは床にすわるかどうかだけだったのです。ラベルが重なって図が読めなくなり、そこで初めて気づきました。
つまり「目線より低い家具を」という助言は、その部屋で床にすわるのか、いすにすわるのかを決めないかぎり、何センチのことなのかが決まりません。同じ部屋の同じ棚が、床にすわる暮らしでは視界を塞ぎ、いすにすわる暮らしでは視界の下に収まります。

オフィスの間仕切りの三段階は、計算と合っていました
ここまで人体寸法だけで計算してきましたが、まったく別の経路から出てきた数字と突き合わせてみます。オフィスのローパーテーションには 1000 / 1200 / 1500 / 1800mm という定番の高さがあり、それぞれ何が見えるかが実務の経験則として整理されています。
オフィスデザインの株式会社ワークの解説には、こう書かれていました。
高さ1200mmの場合 座った状態でちょうど目線くらいの高さになります。
高さ1500mmの場合 座っている人をすっぽりと隠してしまう高さです。立った状態では身長160cmの人で目線くらい、170cmの人で頭がちょうど出る高さです。
計算した帯と重ねてみます。椅子座の目線は1155〜1205mm、立位の目線は1425〜1540mmでした。1200mmは椅子座の帯のなかに入り、1500mmは立位の帯のなかに入ります。1000mmは椅子座の帯より低いので抜け、1800mmは立位の帯の上端を越えるので抜けません。四段階すべてが、計算と矛盾しませんでした。
「160cmの人で目線、170cmの人で頭が出る」という記述も合っています。立位の目線の帯が1425〜1540mmですから、1500mmの間仕切りは帯の下寄りの人には目線、上寄りの人には頭が出る高さになります。学術的な検証ではありませんが、独立に出てきた2つの数字が合ったことは、この記事の数字を使ってよい根拠になると考えました。
出典: 株式会社ワーク「オフィスレイアウトの参考に!間仕切りの高さと視線の関係は?」

売り場のシェルフを、帯に重ねてみます
では実際に買えるものを並べます。すべてメーカーの公表寸法です。
| 製品 | 公表高さ | 床にすわる | いすにすわる |
|---|---|---|---|
| IKEA KALLAX 77×77 | 765 mm | 目線の帯のなか | 抜ける |
| 無印良品 スタッキングシェルフ 2段 | 815 mm | 30mm 超える | 抜ける |
| 無印良品 スタッキングシェルフ 3段 | 1210 mm | 遮る | 5mm 超える |
| IKEA KALLAX 77×147 | 1470 mm | 遮る | 遮る |
| 無印良品 スタッキングシェルフ 5段 | 2000 mm | 遮る | 遮る |
並べてみて、わたしは思わず二度見しました。KALLAX の 765mm は、床にすわった目線(735〜785mm)のちょうど真ん中に入ります。そして無印のスタッキングシェルフ3段の 1210mm は、いすにすわった目線の上端 1205mm を5mmだけ超えていました。よく売れている定番の高さが、たまたま帯の境目に集まっています。
念のため両社の公表資料を確認しましたが、眼高を根拠に高さを決めたという記述はどこにもありませんでした。ですからこれは一致であって、因果ではありません。ただ、家具の高さが人のすわり方と無関係に決まるはずもないので、結果として似た場所に落ち着いたのだろうと思います。目安として使うぶんには十分に役立ちます。
ひとつ細かい話をします。KALLAX は商品名が「77×77 cm」ですが、公式サイトのサイズ欄は「幅76.5 cm / 高さ76.5 cm」でした。5mmの差があります。
記事8でラグの畳数表記を調べたときと同じ構図です。商品名の数字は丸められていて、正確な寸法はサイズ欄のほうにあります。5mmは実用上は無視できますが、境目を見るときには公表サイズを見ます。
囲いの高さの上限は計算できます。下限は計算できません
ここまでで言えるのは、上限のほうだけです。
- 床にすわる暮らしなら、囲いは 700mm 台の前半まで。735mmを超えると座ったときに視界を塞ぎます
- いすやソファにすわる暮らしなら、囲いは 1100mm 前後まで。1135mmを超えると同じことが起きます
- どちらの場合も、1425mmを超えると立ったときにも抜けなくなります
では下限、つまり「これより低いと囲われた感じが出ない」高さはどうでしょうか。ここは数字が出せませんでした。インテリアの記事でよく見る「腰高家具は800〜900mm」という数値の一次資料を探しましたが、見つかりません。記事8でラグを調べたときも同じで、上限は計算できても下限は経験則の域を出ませんでした。
クリストファー・アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』もあたりました。Alcoves (179) には居場所の平面寸法(幅1828.80mm以内・奥行914.40〜1828.80mm)が示されていますが、囲いの高さは書かれていません。
同書の Waist-High Shelf (201) は腰高の棚を扱っていて、一見使えそうに見えます。ただ読むとこれは「手が届く高さ」の話で、「視線が抜ける高さ」ではありませんでした。趣旨がちがうので、ここでは引きません。
囲われている感じが心理的にどう効くか、という方向にも踏み込まないでおきます。囲われ感を扱ったプロスペクト・リフュージ理論は、2016年のメタ分析で屋内での実証が限定的とされているためです。寸法の目安として使い、心理の説明には使わない、という線は記事8から変えていません。
測るのは家具ではなく、自分の目です
最後に、自分で確かめる手順を書いておきます。メジャー1本で終わります。
いつもすわる場所に、いつもの姿勢ですわります。そのまま床から自分の目の高さを測ります。この1つの数字が、その部屋の囲いの上限になります。平均値をあてはめるより確実ですし、身長にも姿勢にも家具にも左右されません。ソファが柔らかくて沈むぶんも、そのまま数字に入ります。
数字が出たら、そこから少し引いた高さを探します。帯のなかに入れないことが大事なので、目線ぴったりの家具がいちばん避けたい高さになります。
無印のスタッキングシェルフが2段(815mm)と3段(1210mm)で分かれているように、既製品の高さは飛び飛びです。ですから微調整はできません。帯をまたぐ側ではなく、下の段を選ぶという判断になります。
そしてもうひとつ。同じ部屋でも、すわる場所が複数あるなら目線も複数あります。ソファにすわるときと、床のラグにすわるときで、囲いの見え方は変わります。どちらを主にするかを先に決めてから、家具の高さを決めることになります。
まとめ
「目線より低い家具を」という助言は正しいのですが、目線が何センチかを決めないと使えません。JIS Z 8500:2002 では目の高さが2項目に分かれていて、立位は床から、座位は座面から測ります。ここを取り違えると、いすの座面高のぶん、約420mmずれます。わたしは実際にずらしました。
床から測ると目線は4段階になります。床座で735〜785mm、ローソファで935〜985mm、ソファで1135〜1185mm、ダイニングチェアで1155〜1205mm、立位で1425〜1540mmです。床座と椅子座の差は420mmで、これが囲いの高さを決める最大の分かれ目でした。
オフィスの間仕切りの 1000 / 1200 / 1500 / 1800mm という定番は、この帯と矛盾しません。市販のシェルフも、KALLAX の765mmが床座の帯のなかに、無印3段の1210mmが椅子座の帯の境目に乗っていました。
囲いの上限は計算で出ます。床座なら700mm台前半、椅子座なら1100mm前後。下限は、いまのところ数字では言えません。
そして、いちばん確実なのは平均値ではありません。いつもすわる場所にすわって、床から自分の目までを測ることです。囲う家具の高さは、部屋の広さからではなく、そこにすわる人の目の高さから決まります。
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