テレビを見る距離と高さの寸法 — 「画面の高さの3倍」は、1分角から出た数字でした

「画面の高さの3倍」は、規格の数字だと思っていました

テレビの置き場所を考えるとき、よく見かけるのが「フルHDなら画面の高さの3倍、4Kなら1.5倍」という目安です。パナソニックの4K解説ページにも、4Kは画面の高さの約1.5倍、ハイビジョンは3倍と書かれています。わたしはこの数字を、どこかの規格に載っているものだと思い込んでいました。

そこで一次資料を探して、ITU(国際電気通信連合)の勧告 BT.2022 の表を読みました。ところが、そこに並んでいたのは 3.2倍と1.6倍で、目安の数字とは少しずれていました。この勧告は放送画質を評価するときの視聴条件を決めたもので、テレビの置き方を決めたものではなく、2020年に廃止されています。ここでは数字の出どころを確かめる資料として読みます。

3.2倍と1.6倍は、「1分角」から計算された数字でした

BT.2022 の1.3.2節は、設計視距離を「隣り合う2つの画素が、見る人の目に対して1分角になる距離」と定義しています。1分角は1度の60分の1にあたる小さな角度です。表1には、画素数ごとの距離が画面の高さの倍数で並んでいます。

わたしはこの表を、自分の計算で確かめました。画面の高さを縦の画素数で割ると1画素の大きさが出て、それが1分角に見える距離は、フルHD(縦1,080画素)で画面の高さの3.18倍、4K(縦2,160画素)で1.59倍でした。表の3.2倍・1.6倍と合っています。パナソニックの3倍・1.5倍は、この計算値を丸めた数字と読むのが自然ですが、丸めたと書いた資料は見つかりませんでした。

フルHD4K
1分角から計算3.18倍1.59倍
ITU BT.2022 表13.2倍 (水平31°)1.6倍 (水平58°)
パナソニック3倍1.5倍

1分角の距離は、「近づける限界」でした

ここまでで、3倍と1.5倍の出どころはわかりました。ただ、1分角の距離は、画素が見分けられなくなるいちばん近い位置を示しています。PHILE WEBの記事も、1.5倍を視力1.0の人が画素を見分けられなくなる限界の距離と説明していました。そこに座るのがおすすめ、という意味ではありません。

テレビメーカーの TVS REGZA は、同じPHILE WEBの記事で、1.5倍を「従来の目安」としたうえで、いつも見る位置のおすすめは2.5〜3倍だと説明していました。臨場感には水平視野角30度以上が要るという考えで、3倍が約30度、2.5倍が約40度に当たるそうです。わたしの計算でも、3倍で33.0度、2.5倍で39.1度、1.5倍で61.3度でした。

REGZAは6倍を、ダイニングテーブルから見る位置の上限にもしています。これは自社の検証にもとづく提案で、元のデータは公開されていません。

わたしは最初、1.5倍と3倍のどちらかが正しい数字だと思って、見比べていました。でも実際は、限界の距離とおすすめの距離という、別の意味の数字でした。

50型なら、限界は1m、おすすめは1.6〜1.9mです

43〜75型のテレビで、画面の高さの1.6倍・2.5倍・3倍の距離をcmで比べた棒グラフ。50型は100・156・187cm

画面の高さは、型(対角のインチ)から計算できます。16:9の画面なら、画面の高さは型×2.54×9÷√337 (cm)です。50型なら62.3cmになり、1.6倍で100cm、2.5倍で156cm、3倍で187cmです。パナソニックが書いている「65型の4Kで約1.2m」も、80.9cm×1.5=121cmと一致しました。

ところが、ある暮らし系のコラムは、50型を4Kで93cm、フルHDで186cmとする表を載せながら、別の欄では「4Kで約1.9m」と書いていました。1.9mはフルHDの数字なので、4Kとフルを取り違えたものと思われます。同じページの中で数字が食い違うことが、この題材では珍しくありませんでした。

6畳に置くと、距離より先に「幅」が気になります

江戸間6畳の平面図に、65型テレビの画面の高さの1.5倍・2.5倍・3倍の距離121・202・243cmを示した図

江戸間の6畳(261×352cm)に、65型を置いて考えてみます。わたしは最初、6畳では距離が足りず、大きなテレビは置けない話になると予想していました。でも計算すると逆で、65型の3倍は243cmで、長辺352cmにおさまります。

むしろ気になるのは幅です。65型の幅は143.9cmで、6畳の短辺261cmの55.1%を占めます。距離は足りても、壁の半分以上がテレビの面になる計算です。なお図は台やソファの奥行きを引いていないので、実際の部屋では、目と画面のあいだの距離がそのぶん短くなります。

画面の中心の高さは、85〜115cmとバラバラでした

距離の次は高さです。設置高さを調べると、上位はテレビの取り付けを請け負う会社と生活情報メディアで、公的な資料は見つかりませんでした。厚生労働省の情報機器作業のガイドライン(令和元年12月)には、ディスプレイについて「画面の上端は眼の高さまで」とありますが、これはパソコンの作業向けで、テレビには触れていません。ITUのBT.2022にも、画面の高さの規定はありませんでした。

運営者画面の位置出典
くらしのマーケット (施工の仲介)中心を42型100cm・50型105cm・65型115cmなし
ミツモア (施工の仲介)65型を床から100cmなし
ハウスケアラボ (生活情報メディア)中心は目線の10〜15cm下なし

ミツモアの「床から100cm」は、中心なのか下端なのか、原文に書かれていません。65型の画面の高さは80.9cmなので、中心なら100cm、下端なら中心は140.5cmになります。2つの読み方で、40cm以上違います。くらしのマーケットは大きな型ほど中心が高く、ハウスケアラボは型に関係なく「目線の下」で決める考え方でした。

台の高さで検算すると、40cmの台では届きません

ソファに座った目線115〜120cmと、40cmの台・70cmの台に置いた50型テレビの中心の高さ71cm・101cmを比べた断面図

目線の高さは、記事20で使った産総研の人体寸法データベースから出せます。ソファの座面400mmに、座位内眼角高(青年女性の平均749mm・青年男性800mm)を足すと、1,149〜1,200mmです。1991〜92年の測定で、姿勢も大腿を水平にした座り方なので、ソファに深く座ればもう少し低くなるはずです。

ハウスケアラボは、ソファで見るときのテレビ台を「約40cm前後」としています。ここに50型を置くと、中心は40+62.3÷2=71cmで、目線の約45cm下です。距離190cmから見ると、13〜14度見下ろす計算になりました。同じページの「目線の10〜15cm下」にそろえるには、わたしの計算では台の天板が69〜79cm必要でした。1つのページの中でも、台の高さと中心の高さの数字は、たがいに合っていません。

腰高の囲い(天板100cm前後)に置くと、50型の中心は131cmで、目線の11〜16cm上になります。このサイトでは、腰高の家具で囲うことを勧めてきましたが、テレビを囲いの上に置くのは高すぎました。40cmは低すぎ、100cmは高すぎで、ちょうどよさはその間の70cm前後にありそうです。見下ろす角度が何度まで楽なのかを示した公的な基準は見つからなかったので、角度は目安として見てください。

まとめ

「画面の高さの3倍」と「1.5倍」は、画素が1分角に見える距離を丸めた数字で、フルHDと4Kの近づける限界に近い値でした。いつも見る位置のおすすめは、メーカーの提案で2.5〜3倍です。50型なら限界の1mからおすすめの1.6〜1.9mまで、距離にはかなり幅があります。

高さのほうは、公的な基準が見つからず、紹介している記事にも出典がありませんでした。中心の高さは、座ったときの目線(115〜120cm前後)と、テレビの画面の高さ(50型で62cm)から、台の天板の高さを逆算するのが確かめやすい方法です。自分のソファで目線を測れば、数字を自分の部屋に置き換えられます。

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