床が見える面積 — 「家具は床の1/3まで」を6畳で検算しました

「家具は床の1/3まで」と、どこにでも書いてあります

部屋を広く見せる方法を調べていくと、かならずこの数字に行き当たります。家具が床を覆う面積を、床全体の3分の1までに抑える。それを超えると圧迫感が出て、部屋が狭く見える、という説明です。建材メーカーも家具店も不動産会社も、判で押したように同じ数字を書いています。たとえば建材メーカーのDAIKENは、こう書いています。

家具を置くのは部屋の広さに対して3分の1程度におさえ、床の面積をなるべく見せるようにしましょう。(DAIKEN 収納情報サイト)

ここまで数字が揃っているのなら、どこかに元になった資料があるはずです。試験のデータか、業界団体の基準か、せめて誰かが最初に言い出した本があるはずだと思って、探してみました。

出典を探して、見つかりませんでした

結論から書くと、「床面積の1/3」の出どころは確認できませんでした。学術文献も、業界団体の基準も、メーカーの試験値も出てきません。出てくるのは同じ数字を書いた記事ばかりで、どのページも根拠を示していませんでした。

おもしろかったのは、このクエリでただ一人、実際に検証している人がいたことです。家事シェア研究家の三木智有さんが、6畳の配置図を3案つくって占有率を出しています。しかも冒頭でこう書いています。

でも、どのくらいの家具の量で床面積の1/3なのかってパッと見てもわからない。僕も「なんとなく〜」程度しかわかりません。(note)

3案の結果は68%・44%・39%で、本人の評価は「68%は圧迫感がある」「39%がベスト」。そして記事の見出しが「結論。家具の床占有率は40%くらいがいいんじゃないか」でした。33%については「少し閑散とし過ぎている」「ミニマリストみたいになる」と書かれています。

つまりこの数字は、業界に広く流通しているけれど根拠が示されたことのない経験則です。このサイトでは、そういうものは経験則として扱うと決めています。だから否定はしません。ただ、鵜呑みにもしないで、自分で数えてみることにしました。

6畳で、1/3を分けてみます

まず器を決めます。江戸間の6畳は261 × 352cmで、面積は 9.1872㎡ です(カーペットマート)。その3分の1は 3.0624㎡。これが「置いてよい」とされている予算になります。わたしはこの数字を見た時点で、6畳では到底収まらないだろうと踏んでいました。

次に中身です。一人暮らしの部屋にまず入るものを、無印良品の公表寸法から3つ選びました。ベッドフレーム・シングルが幅103 × 奥行202cm、パイン材ローテーブルが幅80 × 奥行50cm、スタッキングシェルフ3段×2列が幅82 × 奥行28.5cmです。

家具公表寸法床を覆う面積1/3の予算に対して
ベッドフレーム・シングル103 × 202 cm2.0806 ㎡67.9%
パイン材ローテーブル80 × 50 cm0.4000 ㎡13.1%
スタッキングシェルフ 3段×2列82 × 28.5 cm0.2337 ㎡7.6%
合計—2.7143 ㎡88.6%
「家具は床の1/3まで」を6畳の家具3点で分けた内訳の図

ベッド1台で、予算の67.9%を使います。残る3点ぶんの余りは0.3481㎡で、正方形にすると59cm角ぶんです。椅子を1脚置いたら、そこで終わります。

わたしはここまで書いた時点で、「一人暮らしの最低限の家具でも1/3は超えるから、守れないルールだ」という話にするつもりでいました。ところが計算してみると、3点の合計は部屋の29.54%で、1/3をきちんと下回っていました。予想が外れたので、書こうとしていた結論のほうを取り下げます。

念のためいちばん狭い団地間(255 × 340cm)でも計算しましたが、こちらでも31.31%で、やはり1/3の中に収まりました。「1/3」は守れないルールではありません。ただし守った状態というのは、ベッドとテーブルと収納を1つずつ置いて、あと59cm角の余地しかない部屋のことです。三木さんが39%を選んだ理由も、これで説明がつきます。

同じ段落に、数えているものが2つあります

ここでもう一度、さきほどのDAIKENの文章を見てみます。実はあの引用には続きがあって、ひとつながりの段落になっています。

家具を置くのは部屋の広さに対して3分の1程度におさえ、床の面積をなるべく見せるようにしましょう。(中略)また、足付きのソファや椅子を選ぶと、床が見えやすくなります。

前半の「3分の1」は、家具が床を覆う面積の話です。上から見て、家具の外形が床にどれだけ影を落としているか。後半の「足付きを選ぶ」は、目に見える床の話です。脚の隙間から向こうの床が見えるかどうか。

この2つは、別の量です。そして決定的なのは、脚を付けても、床を覆う面積は1mmも変わらないということです。脚が10cmでも30cmでも、上から見た影の大きさは同じです。変わるのは、横から見たときに見える床のほうだけになります。

同じ段落の中で数え方が切り替わっているのに、そう書いてあるページを見つけられませんでした。ここを分けないまま「床を見せましょう」と言われると、読むほうは何をすればいいのかわかりません。だから以下では、床を覆う面積を「占有率」、目に見える床を「見える床」と呼び分けます。

ベッドを回すと、脇に残る床が59cmと158cmに分かれます

ベッドの向きで脇に残る床が59cmと158cmに分かれる平面図

占有率の話には、面積だけでは出てこない続きがあります。同じ家具でも、向きによって残る床のかたちが変わるからです。面積が同じなら同じように使えるはずだと思っていましたが、平面図を引いてみるとそうではありませんでした。

さきほどのベッド(幅103 × 奥行202cm)を、江戸間6畳に置いてみます。奥行202cmを短辺261cmに沿わせると、ベッドの脇に残るのは59cmです。逆に長辺352cmに沿わせると、脇に残るのは158cmになります。占有率はどちらも22.65%で、まったく同じです。

この59cmという幅に、公的な目安を1つ当ててみます。住宅性能表示制度の評価方法基準では、高齢者等配慮対策等級3と等級4の条件として、こう書かれています。

日常生活空間内の通路の有効な幅員が 780mm(柱等の箇所にあっては 750mm)以上であること。(国土交通省 評価方法基準)

これは介助式車いすを想定した配慮の等級なので、「人が通るのに必要な最小幅」を定めたものではありません。目安として借りるだけにします。それでも59cmは780mmに届きませんから、ベッドの脇の59cm × 103cmの帯(0.6077㎡)は、通り抜けられない床になります。部屋の6.61%が、見えているのに使えない床として残ります。

いっぽう158cmのほうは、通路にも居場所にもなります。等級5の850mmでも余ります。同じ家具、同じ占有率、違うのは向きだけです。このサイトで何度も書いていることですが、落ち着かない部屋の原因が寸法にあることは本当に多いのです。

脚を上げても、占有率は1mmも動きません

では「見える床」のほうは、どう数えればいいのでしょうか。ここからが、この記事でいちばん書きたかったところです。占有率と見える床は、同じ部屋を数えているのに動き方がまるで違います。

さきほどの3点を置いたまま、家具が乗っていない床を数えると70.46%になります。この数字は、ベッドの脚を何cmにしても動きません。上から見た影は変わらないからです。「1/3ルール」が管理しているのは、この70.46%のほうだけです。

ところが実際に部屋に立って見ると、脚の下の床は見えています。無印良品のベッドフレームは高さ25.5cmで、商品説明に「20cm専用脚」と書かれていますから、床から20cmのところに本体があることになります。この20cmの隙間から、床が奥まで覗けます。

見える床まで足すと、立って見たときで78.31%になりました。占有率ベースの70.46%より7.85ポイント多い数字です。家具を1つも減らしていないのに、床が7.85ポイントぶん増えて見えます。減らすのではなく脚を上げる、というのはこういう意味です。

占有率と見える床の違いを比べた横棒グラフ

低い目線ほど、家具の下の床は見えます

脚の下にどれだけ床が見えるかは、じつは計算で出せます。目から家具の手前までの距離をL、床から本体の下端までをh、床から目線までの高さをHとすると、こうなります。

見える奥行 = L × h ÷ (H − h)

目が家具の手前の下端をかすめて、その先の床に落ちるところまでが見える範囲、というだけの話です。この式に、記事2「囲う家具の高さ」で確かめた目線の高さを入れてみます。床にすわると床から735〜785mm、椅子にすわると1155〜1205mm、立つと1425〜1540mmでした。次の表は、2m離れたところから脚20cmのベッドを見た場合です。

見る姿勢床からの目線脚の下に見える床の奥行
立つ1482 mm31.2 cm
椅子にすわる1180 mm40.8 cm
床にすわる760 mm71.4 cm
目線の高さ別に脚の下に見える床の奥行きを比べた断面図

立つと31.2cm、床にすわると71.4cm。2.3倍ちがいます。正直に書くと、わたしは最初これを逆だと思っていました。高いところから見下ろすほうが、床はよく見えるはずだと考えていたのです。式に数字を入れてみて、逆でした。目が低いほど視線が床すれすれになるので、家具の下へ深く入るのです。テーブルの下を覗くとき、人がかがむのと同じことでした。

見える床の合計も、これに応じて変わります。立って見ると78.31%、椅子にすわると79.39%、床にすわると82.82%。床にすわるだけで、占有率ベースより12.36ポイント多い床が目に入ります。

このサイトの原則1は「部屋の中に居場所をつくる」で、その居場所は床に近いほどよく成立します。その理由の一部が、ここで数字になりました。低い居場所は、床をたくさん見せる場所でもあります。

減らさずに、見える床を増やす

ここまでの計算から、家具を減らさずに床を増やす方法が3つ出てきます。どれも占有率は変えないので、「1/3ルール」の成績はまったく動きません。動くのは目に入る床のほうだけです。

1つめは、脚を上げること。ただし「脚付き」であればよいわけではありません。同じ式を逆に解くと、2m離れて立って見たとき、奥行50cmのローテーブルの下を全部見せるには29.65cmの脚が要ります。奥行28.5cmのシェルフでも18.5cmです。よくある10cmの脚では、2m先の床は14.5cmしか見えません。

2つめは、浮かせること。シェルフを床置きから壁付けに替えると、その0.2337㎡は占有率からまるごと消えます。部屋の2.54%が戻り、3点の占有率は27.00%になります。脚を上げるより効きますが、賃貸で壁を使うときは負担区分の話が出てきますので、そこは記事9「賃貸で壁を使う」に書きました。

3つめは、視点を下げること。家具はそのままで、自分がすわる高さを下げる方法です。ソファをやめて床にすわる、椅子を低くする、ラグの上に直接すわる。それだけで見える床は78.31%から82.82%に増えます。家具を1つも買い替えないで済む唯一の方法でもあります。

まとめ

「家具は床の1/3まで」は、出典が見つからない経験則でした。実際に江戸間6畳で数えると、ベッドとローテーブルと収納の3点で29.54%となり、1/3には収まります。ただし残りは59cm角ぶんしかありません。守れないルールではなく、守ると家具が3つになるルールでした。

そして「1/3に抑える」と「脚付きを選んで床を見せる」は、同じことを言っているようで違います。前者は占有率、後者は見える床。脚を上げても占有率は1mmも動かず、動くのは見える床のほうだけです。

  • 江戸間6畳は9.1872㎡。その1/3は3.0624㎡で、ベッド1台が67.9%を使う
  • ベッドの向きひとつで、脇に残る床が59cmと158cmに分かれる。59cmは通路の目安780mmに届かない
  • 見える奥行 = L × h ÷ (H − h)。10cmの脚では、2m先の床は14.5cmしか見えない
  • 目が低いほど、家具の下の床は見える。立つと31.2cm、床にすわると71.4cm
  • 減らさずに増やす手は3つ。脚を上げる・浮かせる・視点を下げる

床が見える面積で部屋の広さは決まる、というのは本当だと思います。ただし「見える」がどちらの意味かを決めないまま家具を選ぶと、増やしたいほうの床は増えません。

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