「目線の高さに飾る」の、目線が何センチか
壁に絵やポスターを飾るとき、いちばんよく見る助言が「目線の高さに」です。ところが、その目線が床から何センチなのかを調べると、ページごとに数字が違いました。中心を135〜145cmと書くところ、140〜150cmと書くところ、145〜150cmと書くところ。座って見る部屋なら120〜130cmという注記もあります。
どれも10cm幅の目安で、しかも半分ほどしか重なっていません。目線の高さそのものを「男性154.8cm・女性142.8cm」と書いたページもありましたが、出典は書かれておらず、測った調査の名前は不明のままでした。この記事では、数字の出どころを2つに絞ります。ひとつは美術館が公開している展示の基準、もうひとつは産総研の人体寸法の実測値です。
美術館は、床から145cmに揃えています
三重県立美術館が、学芸員の仕事を紹介するページで展示の高さを書いています。県の公式サイトにある原文です。
絵を壁にかける場合、当館では通常絵の中心が床から145cmになるよう統一します。大人の平均的な目の高さを想定しているわけですが
出典: 三重県立美術館「学芸員の仕事紹介(5) 作品の展示」
同じページに、子どもを主な対象にした展示では130cmや135cmに下げた例も書かれています。基準は絵の上端でも下端でもなく、絵の中心です。額の大きさが変わっても、中心を145cmに置けば見る人の目との関係が保たれます。この記事でも中心の高さで話を進めます。愛知県美術館にも145cmか150cmと書いたPDFがあると検索結果には出たのですが、リンクが切れていて原文を確認できませんでした。この記事では三重の145cmだけを使います。
145cmは、誰の目の高さか
「大人の平均的な目の高さ」を、実測値で確かめます。産業技術総合研究所のAIST人体寸法データベース1991-92には、床から目の内側の角までを測った「内眼角高」が、立った姿勢と座った姿勢の両方で載っています。まず立った姿勢です。
| 群 | 平均 | 5パーセンタイル | 95パーセンタイル | 145cmとの差 |
|---|---|---|---|---|
| 青年 男 (18〜29歳・217名) | 1596 mm | 1503 | 1699 | 目線が14.6cm高い |
| 青年 女 (18〜29歳・202名) | 1476 mm | 1401 | 1575 | 目線が2.6cm高い |
| 高齢 男 (60歳以上・46名) | 1476 mm | 1419 | 1540 | 目線が2.6cm高い |
| 高齢 女 (60歳以上・48名) | 1363 mm | 1265 | 1456 | 145cmのほうが8.8cm高い |
計測は1991〜92年で、30年以上前の値です。より新しい調査(人間生活工学研究センターの2004〜2006年)は本体が有料で、定義と姿勢まで無料で原文を確かめられるのは、探した範囲ではこのデータベースだけでした。部屋づくりの記事でこれを引いたものは、探した限りゼロでした。
並べてみると、145cmは「平均の目線」というより「ほとんどの大人がやや見下ろす高さ」でした。青年の男女をまとめた分布で、145cmより目が低い人は約16%です(パーセンタイルの線形補間による概算)。わたしは最初、145cmを平均値そのものだと思って読んでいました。重ねてみると、平均より少し下に置いてある高さだとわかります。
もうひとつ、表を作っていてわたしの目が止まった数字があります。青年女性の平均1476.3mmと、高齢男性の平均1476.1mmです。差は0.2mmで、事実上同じ値でした。145cmはこの2つの群の平均より2.6cm低く、高齢女性だけが見上げる側に入ります。三重県立美術館が「子ども向けは130〜135cm」に下げるのと同じ理屈で、誰が見る部屋かで高さは動きます。
座ると、目線は28cm下がります
ここからが、部屋の話です。美術館は立って見る場所ですが、家では座っている時間のほうが長いはずです。同じデータベースの「座位内眼角高」は、座面から目までを測っています。青年女性の平均が749mm、青年男性が800mm。床からの目線にするには、椅子の座面高を足します。

ダイニングチェアの座面を420mmとすると(販売店の目安で、規格ではありません)、床からの目線は青年女性で1169mm、青年男性で1220mmになります。ソファの座面を400mmとすれば、それぞれ20mm下がります。美術館の145cmに掛けた絵は、椅子に座ると女性で28cm、男性で23cm上にあることになります。1.5m離れて見れば見上げ角は約11°、2.5mなら約6°です。
ひとつ補足があります。この計算は、記事2「囲う家具の高さ」で出した椅子座の目線1155〜1205mmより14〜15mm高く出ました。記事2では海外のデータベースの値を使っていて、今回は産総研の値です。産総研の計測姿勢は「大腿を水平にし、膝を約90度に曲げる」なので、ソファに深く沈めばこれより少し下がります。どちらを使っても、立った目線と座った目線の差はおよそ30cmで、結論は同じです。
腰高の家具の上に置くと、高さは家具が決めます
では、座って見る部屋では中心を117cmに下げればよいのでしょうか。わたしもそう書くつもりで計算を始めたのですが、ここで家具が割り込んできました。このサイトでは、部屋を腰高の家具で囲うことを勧めています。天板が床から100cmの家具です。壁の絵は、たいていその家具の上に来ます。
天板から10cm空けて額を掛けたとき、中心が床から何センチになるかを計算しました。用紙の寸法はJIS P 0138の値です。
| 用紙 (縦置き) | 寸法 mm | 下端 | 中心 |
|---|---|---|---|
| A4 | 210 × 297 | 110 cm | 124.9 cm |
| A3 | 297 × 420 | 110 cm | 131.0 cm |
| B3 | 364 × 515 | 110 cm | 135.8 cm |
| A2 | 420 × 594 | 110 cm | 139.7 cm |
| B2 | 515 × 728 | 110 cm | 146.4 cm |

図を描いてみてわたしが気づいたのですが、B2ポスターは家具の上に置くだけで中心が146.4cmになり、美術館の145cmとほぼ同じ高さでした。A2でも140cm、A3でも131cmです。どれも、座った目線117cmと立った目線148cmのあいだに収まります。記事19で「座った目線から立った目線まで」の帯を収納の話で使いましたが、絵もちょうど同じ帯に入ります。
つまり145cmは、誰かが決めた数字である前に、腰高の家具と紙の寸法から自然に出てくる数字でした。立てば少し見下ろし、座れば少し見上げる。囲いの上に絵が載ると、そういう高さに勝手になります。
座った目線に中心を合わせられるのは、A4までです
逆に、座った目線の117cmに中心を合わせるとどうなるか。額の下端は、中心から額の高さの半分だけ下がります。A4縦なら下端は102cm、A3縦は96cm、A2縦は87cm、B2縦は81cmです。天板が100cmの家具があれば、A3以上は家具と重なります。

A4でも余裕は2cmだけです。座った目線に合わせて飾れるのは、下に家具のない壁か、小さな絵ということになります。ソファの背もたれの上に飾る場合は、背もたれの高さが家具の天板の代わりになるので、同じ計算で出せます。テープで天板からの高さを壁に印してから額を当てると、買う前に中心の高さが決まります。
賃貸で壁に穴を開けたくない場合は、記事9で書いた画びょう程度の穴の範囲に収まるフックか、ピクチャーレールになります。額の重さが決めるので、A2以上は先に額の重さを見ます。
美術館は、光の数字も決めています
同じ三重県立美術館のページに、高さのほかにもうひとつ数字がありました。油絵には200ルクス、素描や版画、日本画は50ルクス前後に抑える、という照度です。理由も書かれていて、物の傷みぐあいは光の強さと当てた時間の積に比例するからだそうです。
家の中は、これより明るい場所です。記事7で引いたJIS Z 9110の推奨値は、居間の団らんで200ルクス、読書で500ルクスでした。油絵の上限と同じ200ルクスが、家ではくつろぐときの明るさです。傷みが光の強さと時間の積で決まるなら、ポスターや写真は直射日光の当たる壁を避けるだけで持ちが変わるはずです。高さを決めたら、その壁に日が当たる時間も一度見ておくのがよさそうです。
まとめ
「目線の高さに飾る」の目線は、ページごとに135〜150cmの幅で揺れていました。三重県立美術館は絵の中心を床から145cmに統一していて、産総研の実測値と重ねると、これは青年女性・高齢男性の平均の目線より2.6cm低く、ほとんどの大人がやや見下ろす高さでした。
家では座る時間のほうが長く、椅子に座った目線は117〜122cmです。美術館の高さに掛けた絵は、座ると23〜28cm上にあります。ただし腰高の家具の上に置けば、A3で131cm、A2で140cm、B2で146cmと、家具と紙の寸法が中心の高さを決めてしまいます。座った目線に中心を合わせて家具と重ならないのは、A4までです。
腰高で囲った部屋では、絵の高さはほとんど家具が決めてくれます。座れば少し見上げ、立てば少し見下ろす。囲いの上に載せた絵は、そういう高さに落ち着きます。
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「壁に飾る高さの寸法 — 美術館の「145cm」は、立って見る高さでした」への1件のフィードバック