通路の幅の寸法 — 「人ひとり60cm」は、体の幅に10cmを足した数字でした

「通路は60cm」の出どころを探しました

家具を置くとき、「人が通る幅は60cmあれば足りる」という目安をよく見かけます。ソファとテーブルの間、ベッドと壁の間、本棚の前。部屋づくりの記事にはほぼ必ず出てくる数字なので、どこかに決まりがあるのだろうと思って、出どころを探してみました。

ところが、見つかりませんでした。わたしが調べた範囲では、家具店や不動産会社の解説記事は、1人なら60cm、ゆったりなら70〜80cm、2人がすれ違うなら90〜120cm、横向きなら30cmと書いていますが、どのページも根拠を示していません。しかも数字は記事ごとに少しずつ違います。建築基準法にも施行令にも、住宅の部屋の中の通路幅を決めた条文はありませんでした。

代わりに見つかったのが、産総研の人体寸法データベースと、国交省がバリアフリー設計のために出している基本寸法の表です。この2つを並べると、60cmという数字がどこから来たのかが、だいたい見えてきました。体の幅に10cmを足した数字だった、というのがこの記事の結論です。

体の幅から見ると、3つの目安はこう見えます

産総研 (AIST) が1991〜92年に測った日本人の人体寸法データベースには、通路に関係する項目が3つあります。肩幅 (三角筋の外側で測った幅)、最大身体幅 (腕を自然に下ろした状態でいちばん広いところ)、殿部厚径 (お尻がいちばん出ているところの前後の厚み) です (AIST人体寸法データベース1991-92)。青年男性の値を抜き出すと、こうなります。

項目平均95パーセンタイル97.5パーセンタイル最大
D2 肩幅45.6 cm49.550.352.1
D3 最大身体幅47.0 cm51.652.655.6
E6 殿部厚径 (体の厚み)23.1 cm25.926.327.8

これを目安の数字と重ねてみます。まず「横向きなら30cm」。体の厚み (殿部厚径) は平均23.1cmで、97.5パーセンタイルの人でも26.3cm、測った中でいちばん厚い人で27.8cmでした。30cmは、体の厚みにほんの数cm足した幅です。壁と家具の間に人が入れる最小の帯として、確かに成り立ちます。

次に「1人なら60cm」。腕を下ろしたときの最大身体幅は平均47.0cm、97.5パーセンタイルで52.6cmです。60cmとの差は13.0cmと7.4cm。体の幅に10cm前後のゆとりを足した数字に見えます。この10cmがどこから来たのかは、次の節で公的な表を見ると分かります。

最後に「2人なら90cm」。ここで意外なことが起きました。青年男性の肩幅は平均45.6cmなので、2人分は91.2cmです。90cmでは、平均的な男性2人が肩を並べた幅に1.2cm足りません。最大身体幅で見れば2人分は94.0cmです。

わたしは最初、90cmあれば2人が普通にすれ違えるものだと思っていましたが、実測を並べると、どちらかが体を斜めにするか横向きになる幅でした。2人が体を触れずにすれ違うなら、120cmという目安のほうが実測に合っています (最大身体幅2人分94.0cmに対して26cmの余裕)。

公的な数字は、車椅子の70cmから決まっています

部屋の中の通路に法律の数字はありませんが、部屋の外に出ると、幅を決めた公的な数字がいくつかあります。並べてみると、どれも車椅子を起点にしていることが分かりました。

まず労働安全衛生規則です。第543条に「機械間又はこれと他の設備との間に設ける通路については、幅八十センチメートル以上のものとしなければならない」とあります (e-Gov 労働安全衛生規則)。工場の話ですが、「物と物の間を人が通る幅」を法令が数字で書いた、数少ない条文です。

次に住宅性能表示制度の高齢者等配慮対策等級です。日常生活空間内の通路の有効幅員は780mm以上 (柱などの箇所は750mm) と決まっています (フラット35技術基準)。搬入経路の記事でも引いた数字で、これは介助用車椅子で生活するための寸法です。

そしてバリアフリー法施行令の第19条です。不特定多数が使う建物の移動等円滑化経路では、出入口の幅は80cm以上、廊下は120cm以上と定めています (e-Gov バリアフリー法施行令)。住宅にはかかりませんが、この120cmが「2人がすれ違う」目安の上限と同じ数字です。

これらの数字の意味を一覧にしているのが、国交省の「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」です。第2部第3章に、主要寸法の意味がそのまま表で載っています (建築設計標準 第3章 基本寸法)。

寸法意味 (原文)
80cm車椅子で通過できる寸法
90cm車椅子で通過しやすい寸法
120cm通路を車椅子で通行できる寸法 / 人が横向きになれば車椅子使用者とすれ違える寸法
150cm車椅子使用者が回転できる寸法 / 人と車椅子使用者がすれ違える寸法
180cm車椅子使用者同士がすれ違える寸法
国交省 建築設計標準の基本寸法 (車椅子70・通過80・120・150・180cm) と安衛則543条・住宅性能表示・バリアフリー令の数字を並べた横棒グラフ

同じ資料に、JIS T 9201 (手動車椅子) の全幅は700mm以下、とあります。ここで表を引き算してみます。車椅子の幅70cmに対して「通過できる」が80cm。つまりゆとりは10cmです。人と車椅子がすれ違う150cmから車椅子の70cmを引くと80cmで、表の中で人ひとり分は80cmとして扱われていることになります。

この「ゆとり10cm」を、さきほどの最大身体幅に足してみます。平均の47.0cmに10cmで57cm、97.5パーセンタイルの52.6cmに10cmで62.6cm。「1人60cm」は、体の幅に車椅子と同じゆとりを足した帯にぴたりと収まります。

60cmの出どころが本当にここなのかは確かめようがないので、これは推測です。ただ、公的な表の考え方と人体の実測をつなぐと、この数字が自然に出てくることは確かめられました。

6畳では、通路が床の3割になります

通路の幅が決まったら、それが部屋のどれくらいを占めるのかを計算してみます。床が見える面積の記事と同じ江戸間の6畳 (261×352cm・9.1872㎡) に、長辺いっぱいの直線の通路を1本通した場合です。

通路の幅面積床に占める割合
30cm (横向き)1.06 ㎡11.5%
60cm (1人)2.11 ㎡23.0%
80cm (安衛則・車椅子)2.82 ㎡30.7%
120cm (2人・バリアフリー令)4.22 ㎡46.0%
江戸間6畳の平面図に幅60cmと80cmの通路を通し、家具1/3・通路30.7%・居場所36.0%の積み上げを示した図

幅60cmの通路は床の23.0%、80cmなら30.7%です。60cmを80cmに広げると、増える床は0.70㎡で、6畳の7.7%にあたります。畳半分に少し足りないくらいの面積が、通路の幅を20cm変えるだけで動きます。

ここで、床が見える面積の記事で使った「家具は床の1/3まで」を重ねてみます。家具の足元が33.3%、通路80cmが30.7%とすると、残りは36.0%。6畳の床は、家具・通路・居場所でほぼ3等分になる計算です。

通路を60cmにすれば居場所の床は43.7%まで増えます。「物を減らさずに広く見せる」というこのサイトの方針で言えば、通路の帯は、家具を置かずに床を見せておく場所そのものです。幅を決めるということは、見せておく床の量を決めることでもあります。

もうひとつ、ソファで計算してみました。無印良品の2.5シーターの奥行きは90.5cmです (搬入経路の記事で使った公表寸法)。これを6畳の長辺の壁につけ、手前に80cmの通路を取ると、短辺261cmから残るのは90.5cm。ソファの奥行きと同じ幅が、通路の向こうに残ります。偶然ですが、ローテーブルと足元を置く帯としては、ちょうどよい大きさです。

59cmの帯は、通れます — 前の記事の言い方を直します

この計算をしていて、自分の書いたものを直すことになりました。床が見える面積の記事で、幅103×奥行202cmのベッドを6畳の短辺に沿わせると脇に59cmの帯が残る、と書き、住宅性能表示の780mmを基準に「59cmは通れない床」と言い切っていました。

6畳の短辺261cmをソファ90.5・通路80・残り90.5に分けた図と、ベッド脇59cmの帯に最大身体幅47.0と介助用車椅子78を重ねた図

人体寸法で見直すと、これは言い過ぎでした。59cmは青年男性の最大身体幅の平均47.0cmより12.0cm広く、97.5パーセンタイルの52.6cmと比べても6.4cmの余裕があります。人は通れます。

通れないのは介助用車椅子で、780mmはそのための寸法です。わたしが基準の対象を確かめずに「通れない」と書いていたわけで、正しくは「人は通れるが、車椅子の基準には19cm足りない床」です。この記事で言い換えておきます。

ついでに書いておくと、高齢者の肩幅は青年より小さく、男性で42.6cm (青年より3.1cm小さい)、女性で39.9cmでした。年をとると体の幅は縮みますが、杖を使うと歩く幅は広がります。建築設計標準は、杖を片手で使う人の歩行幅を70〜90cm、松葉杖なら90〜120cmとしています。60cmで足りるのは、何も持たずに歩く人だけ、ということも一緒に覚えておくとよさそうです。

通路の上は、1.8m空けておきます

最後に、幅ではなく高さの話をひとつ。労働安全衛生規則の第542条は、屋内の通路について「通路面から高さ一・八メートル以内に障害物を置かないこと」と定めています。これも工場の規則ですが、通路とは幅だけでなく、上に何もない空間のことだ、という考え方がここに書いてあります。

部屋の中でこれを守ろうとすると、通路の上に来るのは吊り戸棚や背の高い棚の張り出しです。囲う家具の高さで書いたように、腰高の家具で囲うと、立ったときの目線 (男性で約154cm) の上には何もない状態になります。通路の幅を床で確保し、通路の上を腰高で空ける。この2つが揃うと、同じ床面積でも歩くときの見通しが変わります。

通路の幅を決める前に、床に養生テープで帯を貼って、実際に歩いてみることをおすすめします。60cmと80cmの差は20cmですが、貼ってみると印象がかなり違うはずです。テープ1本で、買う前に答えが出ます。

まとめ

「通路は60cm」の出どころは、法律ではなく人体寸法にありました。青年男性の最大身体幅は平均47.0cm、体の厚みは23.1cm。国交省の建築設計標準は車椅子70cmに対して「通過できる」を80cmとしていて、このゆとり10cmを体の幅に足すと57〜63cmになります。横向きの30cmも、体の厚みに数cm足した幅でした。

一方で「2人なら90cm」は、青年男性の肩幅2人分91.2cmに足りません。すれ違うなら120cmで、これはバリアフリー法施行令の廊下の数字と同じです。6畳に通路を1本通すと、60cmで床の23%、80cmで31%。家具を1/3に抑えれば、残りの1/3強が居場所の床になります。

前の記事で「通れない」と書いた59cmの帯は、人は通れる幅でした。通れないのは車椅子です。通路は、家具を置かずに見せておく床の帯です。幅を体の寸法で決め、上を1.8m空けておく。それが、物を減らさずに広く見せるための、動線の側の寸法です。

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