ラグの寸法 — 狭く見えるサイズと、広く見えるサイズ

「6畳用のラグ」は、売っていません

ラグを買おうとして、まず部屋の畳数から考えたことはないでしょうか。6畳だから6畳に合うもの、という考え方です。わたしもそう思って商品ページを開いて、そこで手が止まりました。書いてあるのは「約2帖」「約3.8帖」。部屋と同じ「畳」という単位なのに、なぜか数字が噛み合いません。

調べてみて、理由がわかりました。「畳」という単位が、3つあるのです。部屋の畳と、不動産広告の畳と、ラグの畳。この3つはそれぞれ別の決まりで動いていて、しかもどれも一致していません。畳数で選ぼうとすると外れるのは、そのためでした。

「畳」という単位は、3つあります

① 部屋の畳 — 地域で29.5%違います

まず、畳の寸法そのものが全国で統一されていません。地域によって規格が分かれていて、その差がかなり大きいのです。

1畳の寸法1畳の面積
本間98 × 191 cm1.8718 ㎡
京間91 × 182 cm1.6562 ㎡
江戸間88 × 176 cm1.5488 ㎡
団地間85 × 170 cm1.4450 ㎡

出典: カーペットマート

畳の寸法は地域で違います。本間と団地間で1畳あたり29.5%の差。

いちばん大きい本間と、いちばん小さい団地間で、1畳あたりの面積が29.5%違います。6畳に直すと 10.925㎡ と 8.670㎡ で、差は2.255㎡。江戸間の畳にして約1.5枚分です。同じ「6畳」と呼ばれている部屋の話なのに、畳1枚半ぶんも違うことになります。

ややこしいことに、呼び名のほうも資料によって揺れます。191×95.5cm を「京間」と呼んでいる資料もありました。名前で覚えようとすると混乱するので、寸法を先に見て、名前は後から確かめるほうが安全だと思います。

② 広告の畳 — 1.62㎡以上、ただし「壁心」

一方で、不動産広告の畳数にははっきりした定義があります。不動産の表示に関する公正競争規約の施行規則に、こう書かれています。

住宅の居室等の広さを畳数で表示する場合においては、畳1枚当たりの広さは1.62平方メートル(各室の壁心面積を畳数で除した数値)以上の広さがあるという意味で用いること。

つまり広告の「6畳」は、9.72㎡以上という意味になります。ここで見落としやすいのが括弧の中で、「壁心面積」と書いてあるところです。壁の中心線で囲った面積であって、床として使える面積ではありません。

わたしは最初、江戸間の1畳(1.5488㎡)が1.62㎡を下回っているのを見つけて「広告のほうが盛っているのでは」と思いました。でもこれは勘違いでした。規約は壁心を、畳は畳そのものを測っています。そもそも比べられるものではなかったのです。

正しく言い直すとこうなります。広告の畳数から逆算した面積より、実際にラグを敷ける床はかならず狭くなります。壁の厚みのぶんだけ、先に引かれているからです。

③ ラグの畳 — 検算すると、合わないものがあります

では市販ラグの「約○帖」は、どこを基準にしているのでしょうか。既製サイズの面積を、江戸間の1畳(1.5488㎡)で割ってみました。

サイズ面積江戸間で割った値商品表記
100 × 1401.40 ㎡0.90 畳約0.9畳
140 × 2002.80 ㎡1.81 畳約1.8畳
200 × 2004.00 ㎡2.58 畳約2.5畳
200 × 2505.00 ㎡3.23 畳約3.8畳
200 × 3006.00 ㎡3.87 畳約3.5畳

上の3つはぴたりと合いました。江戸間が基準になっているようです。ところが下の2つが合いません。しかも大きいほうのラグに小さい畳数がついていて、順序が逆転しています。おそらく表記が入れ替わっているのだと思います(200×300の3.87畳は「約3.8畳」とよく合いますから)。

これは特定のお店を責めたい話ではありません。言いたいのは、ラグの畳数表記には統一規格がなく、計算の根拠も公開されていないので、買う側には検算のしようがないということです。同じ「約2帖」でも、商品によって185×185のことも200×200のこともあります。面積にすると3.42㎡と4.00㎡で、17%も違うものが同じ表記で並んでいます。

ここまで調べて、結論が出ました。ラグは畳数ではなく、cmで選びます。そして測る対象は部屋そのものではなく、部屋の中につくりたい「居場所」のほうになります。

既製サイズは、畳の比率でできていません

もうひとつ、選ぶ前に知っておくとおもしろい事実があります。畳の縦横比は 1 : 2 です(88 : 176)。ところが市販ラグの既製サイズは、この比率になっていません。

100×140が1 : 1.400、140×200が1 : 1.429、130×190が1 : 1.462。並べてみると、白銀比の 1 : 1.4142 のあたりに集まっています。カーペットマート自身も「白銀比を表す比率に近い」と書いていました(「最も美しい」という部分は販売店の記述で、学術的な裏づけは確認できていません)。

正方形のほうも、畳とはずれていました。江戸間の畳を2枚並べれば176 × 176cmの正方形になるので、これがそのまま既製サイズになっていてもよさそうなものです。でも実際に売られているのは185×185・190×190・200×200で、畳2枚より一回り大きいところに規格が置かれています。

理由として販売店が挙げているのは、部屋の誤差でした。同じ「江戸間6畳」でも実際の寸法は建物ごとにばらつくので、「流通するラグの大きさは多少の誤差に対応できるように配慮して作られています」とのことです。畳から出発しつつ、意図的に少しずらしてある。畳数で考えているうちは、このズレには気づけません。

6畳に置けるのは、2通りだけです

では具体的に、江戸間6畳(261 × 352 cm)に既製サイズを置くとどうなるでしょうか。

敷き方には呼び名があります。部屋全体に施工する「敷き込み」、既製品を部屋いっぱいに置く「敷き詰め」、壁から30〜50cmあけて敷く「センター敷き」、そしてソファの下などに部分的に置く「ピース敷き」です。

6畳の部屋で壁から30〜50cmあけた残りを計算すると、201 × 292 cm から 161 × 252 cm のあいだになります。この帯に収まる既製サイズは、200×250(余白は短辺30.5cm・長辺51cm)と190×240(35.5cm・56cm)のあたりだけでした。

江戸間6畳に既製サイズを実寸で置くと、2通りにしかなりません。

いっぽう140×200を6畳の中央に置くと、余白は短辺60.5cm・長辺76cmになります。センター敷きの帯を大きく外れるので、これはもう「部屋に敷いた敷物」ではありません。人がひとり通れる幅が、ラグのまわりをぐるりと囲んでいる状態です。

つまり6畳に既製サイズを置くと、結果はかならずどちらかになります。部屋を覆う(200×250前後・床がほとんど見えなくなる)か、居場所だけを囲む(140×200以下・床がぐるりと残る)か。

このサイトでずっと「物を減らさずに広く見せる」という話を書いていますが、ラグについてはいちばん単純です。床が見えている面積が残るほうを選べば、広く見えます。

ラグの大きさは、「居場所」の大きさです

ここからが本題になります。ラグを床の装飾ではなく、居場所の輪郭を床に描く線だと考えると、選び方がすっかり変わります。

クリストファー・アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』に、Alcoves (179) というパタンがあります。共有の部屋の端に小さな居場所をつくる、という内容で、寸法の目安まで書かれています。

Make small places at the edge of any common room, usually no more than 6 feet wide and 3 to 6 feet deep and possibly much smaller.

共有の部屋の端に小さな場所をつくる。通常は幅6フィート以下、奥行3〜6フィート、もっと小さくてもよい

換算すると、幅182.88cm以下・奥行91.44〜182.88cmです。この182.88cmを市販ラグの寸法と重ねてみたところ、おもしろいことが起きました。100×140は両方とも収まります。130×190と140×200は幅が収まって長辺が超えます。そして185×185と190×190が、ほぼ線の上に乗っていました。

既製サイズの短辺・長辺と、アルコーブ(179)の上限182.88cm。正方形ラグがちょうど線上に乗ります。

正方形ラグは、アレグザンダーの言う居場所のほぼ最大寸法だったわけです。もちろん偶然だと思います。アレグザンダーが日本のラグ市場を見て書いたわけではありません。ただ「二人が座って話せる最小のまとまり」を寸法にすると、だいたいこのあたりに落ちるという一致には、目安として使う価値がありそうです。

ひとつ断っておくと、ここで引いているのはパタンの寸法と原文だけです。「囲われていると心理的に安心する」という方向には踏み込みません。囲われ感を扱ったプロスペクト・リフュージ理論は、2016年のメタ分析で屋内での実証が限定的とされているためです。寸法の目安として使い、心理の説明には使わない、という線を引いています。

140 × 200 には、向きがあります

さきほどの表でひとつだけ、扱いが変わるサイズがありました。140 × 200です。140を幅とみなせばアルコーブの上限に収まり、200を幅とみなすとはみ出します。同じ1枚のラグが、置く向きによって「居場所」になったりならなかったりするわけです。

具体的には、140を座る人の並ぶ方向に向けると、幅140cmの居場所ができます。二人が並んで座れる幅です。逆に200を座る方向に向けると幅200cmになり、人と人の距離が開いて、まとまりが弱くなります。

ラグを買うとき、多くの人は面積だけを見て「これで足りるか」を考えます。わたしもそうでした。でも足りるかどうかより、どちらを幅にするかのほうが効きます。このサイトで何度か書いていることの繰り返しになりますが、なんとなく落ち着かないと感じたとき、原因が寸法にあることは本当に多いのです。

ソファとの関係については、正直に書きます

インテリアの記事でよく見かけるのが「ソファの前脚だけラグに乗せる」という置き方です。奥行きが出る、掃除が楽、脚のデザインが見える、といった理由が並んでいます。

この主張の出どころを探してみたのですが、一次資料は見つかりませんでした。家具店とラグ通販の解説記事が同じことを書いているだけで、根拠を示したものはありません。なので、ここでは「そういう置き方が広く流通している」以上のことは書かないでおきます。

代わりに、自分で確かめられる手順を書いておきます。まずソファの脚と脚のあいだを測ります(外寸ではなく、脚の間隔です)。次に、座ったときに足が着く位置まで、床に養生テープを貼ります。その長方形が、そのまま必要なラグの寸法になります。

ラグの寸法は、部屋から決まるものではありません。そこで何をするかから決まります。座るのか、寝転ぶのか、テーブルを置くのか。テープを貼れば、買う前に答えが出ます。

なお、ダイニングでテーブルの下に敷く場合は、販売店が具体的な目安を出しています。2〜3人用テーブルなら170×220、4〜6人用なら220×250だそうです(カーペットマート)。椅子を引いたときに、後脚がラグから落ちない、という考え方ですね。

最後に、テープを買います

寸法の話ばかり書いてきましたが、最後にひとつだけ、寸法ではない注意を書いておきます。

NITE(製品評価技術基盤機構)が2020年に出した注意喚起に、こんな事故事例がありました。

立ち上がりスリッパを履こうとしたとき、床に敷いていたカーペットラグの上で滑ったためバランスを崩して転倒し、負傷した。

同じ資料の「事故を防ぐポイント」には、こう書かれています。

カーペットラグ(置き敷きタイプ)はテープで床に留め滑らないようにするなどして、周囲の環境を整える。

2010年度からの10年間で、NITEに通知のあった高齢者の屋内の製品事故は790件、うち転倒・転落が130件でした(出典)。ラグはそのうちの一部にすぎませんが、置き敷きのラグを固定するというのは、メーカーではなく公的機関が名指しで書いている、数少ない具体的な対策です。

ずれ止めテープは数百円で買えます。ラグと一緒に買っておくのがおすすめです。敷いてから買いに行こうと思うと、たいてい行きません。

まとめ

ラグの「畳」は、部屋の畳とも広告の畳とも違います。部屋の畳は地域で29.5%違い、広告の畳は1.62㎡以上と決まっているものの測り方が壁心で、ラグの畳には統一規格すらありません。だから畳数で選ぶと外れます。cmで選びましょう。

そして既製サイズは、畳の比率(1 : 2)ではなく白銀比のあたりに集まっていて、正方形も畳2枚(176×176)より一回り大きいところに置かれています。6畳に置けば、部屋を覆うか居場所を囲むかの2通りにしかなりません。広く見せたいなら後者です。

居場所の寸法の目安は、幅182.88cm以下・奥行91.44cm以上。140×200なら140を幅にすると居場所になります。そして買ったら、ずれ止めテープで留めます。

ラグは、部屋に合わせて買うものではありません。部屋の中につくりたい居場所に合わせて買うものです。だから測るのは部屋ではなく、床に貼ったテープの内側になります。

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