給気口を、閉めたくなる季節に
壁の上のほうに付いている丸い給気口から、冬は冷たい空気が入ってきます。閉めていいのか気になって検索すると、「絶対に閉めてはいけない」と書くページと、「レバーで絞って窓換気で補えばよい」と書くページが並んでいて、どちらも根拠の数字は書いてありません。
じつはこの給気口、法律で決められた設備です。そして給気口だけではなく、部屋には法律が決めた「空気の通り道」が一筆書きで通っています。ドアの下の細い隙間まで、その一部です。今回は、この通り道を寸法で追いかけます。

住宅の居室は、0.5回/hの常時換気が義務です
2003年 (平成15年) 7月の建築基準法改正で、シックハウス対策として、住宅の居室には換気回数0.5回/h以上の機械換気設備の設置が義務になりました (施行令20条の8)。0.5回/hというのは、1時間に部屋の空気の半分が入れ替わるという意味です。2時間で部屋1杯ぶん、1日なら12杯になります。
江戸間6畳 (261×352cm・天井高2.4m) で計算すると、部屋の空気は約22㎥。その半分ですから、毎時11㎥の空気が入れ替わり続ける設計です。1日では約265㎥。目に見えないだけで、かなりの量が動いています。
面白いのは、国土交通省の技術基準の資料に書かれた理由です。ホルムアルデヒドを出す建材を使っていない家でも換気設備が要るのは、「家具からの発散があるため」。つまりこの義務は、建物ではなく持ち込む家具のほうを見て作られています。物が多い部屋ほど、通り道の話は他人事になりません。
なお、施行日より前に建てられた住宅にはこの義務はありません。古い賃貸に給気口が見当たらないのは、そのためです。
通り道は、一筆書きになっています
賃貸や戸建てで多いのは、居室の給気口から自然に外気を取り込み、浴室・トイレ・洗面所の排気ファンで吐き出す方式です (第3種換気と呼ばれます)。空気は、給気口 → 居室 → ドアの下 → 廊下 → 排気ファン、という順路で家の中を横断します。
この順路のせいで、法律の「居室」の範囲が少し不思議なことになっています。国土交通省の資料には、換気の通り道になっている廊下は居室と一体のものとして「居室」に含まれると書かれています。ドアの下の隙間でつながった廊下は、法律の目には部屋の続きに見えているわけです。
「居室」には、ドアのアンダーカット等の常時開放された開口部を設け、換気計画上居室と一体的に換気を行う廊下等の建築物の部分が含まれる。
— 国土交通省「シックハウス対策に係る技術的基準 (政令・告示) について」
ドアの下の1cmは、給気口1個ぶんです
その「ドアのアンダーカット」が、この記事でいちばん書きたかった寸法です。開き戸を換気の通り道にする場合、高さ1cm程度のアンダーカット (ドア下の隙間) か換気ガラリが必要で、有効開口面積の目安は100〜150cm²程度とされています (三菱電機の技術資料、建具の業界団体リビングアメニティ協会も同じ説明をしています)。
調べる前のわたしは、ドアの下の隙間を建て付けの余裕か何かだと思っていました。でも幅78cmのドアで計算すると、高さ1cmの隙間は78cm²。丸い自然給気口 (呼び径φ100) の面積が78.5cm²ですから、差は0.7%しかありません。ドアの下の細い線は、壁の給気口とほぼ同じ大きさの、細長い「設備」でした。

ちなみに、6畳ぶんの毎時11㎥が全部この隙間を通るとしても、風速は計算上0.39m/s。ビルの環境基準が「気流0.5m/s以下」ですから、風と感じない程度のゆっくりした流れです。隙間風のイメージとはだいぶ違います。
引き戸・折れ戸・ふすま・障子には、この措置は要りません。四周にもともと十分な隙間があるので、そのままで通気が確保できる建具とされています。逆に、アンダーカットのない開き戸の部屋が違法というわけでもありません。換気の通り道になっていない部屋の建具には、そもそもこの措置が不要だからです。境目は「その部屋が通り道かどうか」にあります。
ひとつ、検算していて気づいたことがあります。三菱電機の資料には、機械換気なしで済む例外 (常時開放の開口が床面積1㎡あたり15cm²以上) の説明に「6畳間: 直径13.6cm相当の穴」とあるのですが、江戸間の6畳で計算すると直径13.2cmにしかなりません。
数字を合わせにいくと、答えはひとつでした。畳1枚を不動産広告の基準 (1.62㎡) で換算したときだけ、13.6cmになります。畳という単位が部屋と広告とラグで食い違う話はラグの寸法の記事に書きましたが、換気の資料の中でも、畳はやっぱり揺れていました。
毛足の長いラグは、通り道より高い
ドアの下が通り道だと分かると、床に敷くものの見え方が変わります。ラグの毛足です。販売店の分類では、シャギーラグの毛足はセミで15〜20mm、ミドルで21〜30mm、ロングだと31〜50mmあります (びっくりカーペット)。

アンダーカットの高さは1cm、つまり10mmです。ロングシャギーの毛足はその3.1〜5.0倍。毛足の長いラグがドアの下まで敷かれていると、1cmの通り道は毛足に埋まってしまいます。ドアの開閉に引っかかるという分かりやすい不都合もあるので、ラグはドアの開閉範囲とドアの下にかからない寸法で選ぶのが安全です。6畳にどのサイズが収まるかは、ラグの寸法の記事の計算がそのまま使えます。
給気口の前に、家具を置かない
通り道のもう一方の端、給気口のほうにも家具の話があります。検索上位を読んだとき、わたしは「レバーで絞ってよい」派にも一理あると思いかけました。でも公的機関とメーカーの資料は、絞る前にやることを先に示しています。いちばん具体的だったのはUR都市機構の解説でした。
給気口の前に家具を置いたりして、空気の通り道をふさいでしまうと、効率的な換気ができなくなります。さらに、部屋の空気が悪くなるだけでなく、室内の気圧が下がって、サッシ窓やドアが開きにくくなる場合もあります。
— UR都市機構「給気口とは?」(URくらしのカレッジ)
気圧が下がってドアが重くなる、というのは三菱電機の技術資料にも同じ記述があります。給気が細るとドアの開け閉めに出る。換気の不調は、空気の質より先に建具の手応えに現れるわけです。
では冬の冷気はどうするか。URの答えは配置換えでした。「給気口のすぐ前は冷気が直接入ってくるため、寒く感じることがあります。その場合は、家具の配置換えをして、ソファやデスクなど人が長時間いる場所を給気口から離すと良いでしょう」。
熱のほうの答えも意外でした。「熱の多くは窓から逃げてしまっているため、床まである厚めのカーテンを掛けるなどして、窓の断熱対策をする方が効果的」だと書いています。給気口を閉めて得られる断熱より、窓で失っている熱のほうがずっと大きい、という順序です。

このサイトの言葉に引きつけると、こうなります。部屋を囲う家具は、給気口のない壁から使っていく。人の居場所を給気口から離すというURの助言は、居場所をどこに作るかという話 (部屋の中に「居場所」をつくるで書いた原則) と同じ操作です。エアコンの風の通り道 (エアコンの風の寸法) と合わせると、家具の配置を決める「見えない寸法」がまたひとつ増えたことになります。
まとめ — 通り道を切らない、が全部です
部屋には、法律が決めた空気の通り道が通っています。住宅の居室は0.5回/hの常時換気が義務で、6畳なら毎時11㎥。空気は給気口から入り、ドアの下の1cm (給気口1個ぶんの面積) を抜けて、浴室やトイレの排気ファンから出ていきます。
だから住む側にできることは単純で、この一筆書きをどこでも切らないことです。給気口を閉めない。給気口の前に家具を置かない。毛足の長いラグをドアの下まで敷かない。寒ければ、閉める代わりに居場所を給気口から離し、断熱は窓でやる。
どれも家具と敷物の置き方の話、つまり寸法の話です。空気は見えませんが、通り道の寸法は測れます。
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