「在宅の机は何ルクス必要か」を調べたら、数字が6つ出てきました
同じ部屋で仕事をして、そのまま暮らす。ここ数年で当たり前になった住み方ですが、この部屋をどう作るかという話になると、とたんに手がかりが少なくなります。上位に出てくる記事は「棚でパーテーションを作る」「L字にレイアウトする」で、寸法がほとんど出てきません。
そこで明るさから調べてみることにしました。ところが「在宅勤務 デスク 何ルクス」で出てくる数字を並べたら、こうなりました。150ルクス以上。300ルクス以上。400ルクス以上。750から1000ルクス。全体照明は300から500ルクス。画面上は500ルクス以下。
6種類あって、どれが法律でどれが目安なのかを書いたページが見当たりません。しかも先頭の「普通の作業は150ルクス以上」は、2022年12月に廃止された古い区分でした。わたしはここが調べ直す価値のあるところだと思ったので、原文まで戻ってみます。

出てくる数字は、根拠の強さで4段階に分かれています
原文にあたって並べ直すと、4つの層になりました。上から順に、義務・行政指導・国の手引き・規格です。
いちばん強いのが事務所衛生基準規則の第10条第1項で、令和4年12月1日から、作業面の照度は「一般的な事務作業」で300ルクス以上、「付随的な事務作業」で150ルクス以上と決まっています。それ以前は「精密な作業300/普通の作業150/粗な作業70」の3区分でしたが、読み取りの細かさで2区分に整理されました。
厚生労働省のリーフレットは、この改正の理由をこう書いています。「照度不足の際に生じる眼精疲労や、文字を読むために不適切な姿勢を続けることによる上肢障害等の健康障害を防止する観点から、すべての事務所に対して適用されます」(出典)。
次が情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン(令和元年7月12日 基発0712第3号)です。こちらは通達なので義務ではありませんが、数字はより具体的で、画面と手元をはっきり分けて書いています。
ディスプレイを用いる場合の書類上及びキーボード上における照度は300ルクス以上とし、作業しやすい照度とすること。
また、ディスプレイ画面の明るさ、書類及びキーボード面における明るさと周辺の明るさの差はなるべく小さくすること。
ここでわたしは一つ気づきました。「ディスプレイ画面上は500ルクス以下」という数字を紹介しているページがいくつかありましたが、現行のガイドラインを通して読んでも、画面上の照度の上限は書かれていません。書いてあるのは「明るさの差はなるべく小さくすること」だけです。500ルクスは平成14年のVDTガイドラインにあった記述で、それが残ったまま引用されているようでした(原文)。
自宅の机には、国が決めた数字がありません
ここが、この記事でいちばん書きたかったところです。上の300ルクスは、そのまま自宅に持ってこられません。事務所衛生基準規則が適用されるのは、第1条で「建築基準法第2条第1号に掲げる建築物又はその一部で、事務作業に従事する労働者が主として使用するもの」と定義された事務所だからで、自宅の机はここに入らないのです。
では国は自宅について何と言っているかというと、情報機器ガイドラインの配慮事項にこう書かれています。事業者が提供している作業場以外でテレワークを行う場合は、衛生基準と「同等の作業環境となるよう、テレワークを行う労働者に助言等を行うことが望ましい」。義務ではなく、助言です。
そして厚生労働省が用意した「自宅等においてテレワークを行う際の作業環境を確認するためのチェックリスト」を開くと、明るさの欄はこの1行だけでした。
(1)作業を行うのに支障ない十分な明るさがあるか。
数値は1つも書かれていません。観点として「室の照明で不十分な場合は、卓上照明等を用いて適切な明るさにしているか」と添えられているだけです(出典)。
わたしは最初、国が手を抜いているのかと思いました。でも読み進めるうちに、これは正しい書き方だと考えるようになりました。自宅は事務所ではなく、机の前だけで暮らしが完結する場所でもありません。一つの数字を置いても、部屋の他の部分が説明できないのです。そのことは、次のJISの規定を読むとはっきりします。

JISは、明るさを測る面を2つに分けています
照明の規格であるJIS Z 9110(照明基準総則)に、こんな一文があります。推奨照度をどの面で測るかを決めている箇所です。
基準面を特定できない場合には,床上0.8 m(机上視作業),床上0.4 m(座業),又は床若しくは地面のいずれかを基準面と仮定する。
規格が「机上視作業」と「座業」を分けて、床上80cmと床上40cmという2つの高さを与えています。仕事をする面と、床にすわって暮らす面です。同じ部屋で仕事と暮らしをするというのは、この40cm違う2つの面を1つの部屋で同時に成り立たせることだったわけです。
この40cmは、天井から見ると距離の差になります。天井高2.4mの部屋なら、天井の照明から机上面までが1.6m、座業面までが2.0m。光の届き方は距離の2乗に反比例しますから、距離が1.25倍になれば届く量は0.64倍です。同じ照明で、座業面は机上面の0.64倍の明るさになります。
このサイトでずっと書いてきた「居場所は床に近いところにできる」という話と、ここでつながりました。床に近い居場所は、天井の照明からいちばん遠い場所でもあります。天井の1灯でまかなおうとすると、いちばん暗くなるのが、いちばん長くすごす場所になってしまいます。

団らんと仕事のあいだには、3段あります
では、その2つの面に必要な明るさはどれくらい違うのでしょうか。JIS Z 9110の推奨照度を並べると、こうなります。
| 場所・作業 | 推奨照度 |
|---|---|
| 居間(団らん) | 200 lx |
| 台所(調理台) | 300 lx |
| 居間(読書) | 500 lx |
| 書斎(勉強) | 750 lx |
| 事務所の事務室 | 750 lx |
JISには照度段階という考え方があって、「照度の違いを感覚的に認識できる最小の照度の差異を,ほぼ1.5倍間隔とする」と書かれています。段階の数列は 100, 150, 200, 300, 500, 750, 1000, 1500 と続きます。団らんの200から事務室の750までは、この階段を3段のぼることになります。
ここでわたしは計算が合わなくて手が止まりました。1.5倍を3回なら3.375倍のはずですが、200と750の実際の比は3.75倍です。原文を読み直すと「ほぼ1.5倍間隔」と書いてありました。数列のほうが切りのよい数字に丸めてあるので、段の数と倍率はぴったり対応しません。段数は感覚の目安、倍率は実際の値、と分けて読むのが正しいようです。
いずれにせよ、同じ部屋に200ルクスの団らんと750ルクスの仕事が同居することになります。この3.75倍の差は、家具のレイアウトではなく、明るさの作り方で吸収するしかありません。

天井から作るか、手元から作るか
ここからが、寸法の話の本番です。机上を200ルクスから750ルクスに上げるとして、足りない550ルクスをどこから足すかで、部屋の他の場所への影響がまったく変わります。
天井の照明を強くして足した場合、その光は部屋全体に降ります。座業面は机上面の0.64倍なので、床上40cmの面にも352ルクスが上乗せされます。団らんの推奨値が200ルクスですから、それを大きく超える明るさが、床のほうまで一日中降り続けることになります。
同じ550ルクスをデスクライトで足すとどうなるか。光源が机上30cmにあるとして計算すると、必要な光度は49.5カンデラです。この光が、机から水平に1.5m離れた床上40cmの点に届く量は7.6ルクスでした。同じ明るさを作るのに、床へのこぼれ方は約46倍違います。
ここは点光源の逆二乗則と余弦則による概算です。実際の照明器具は配光をもち、壁と天井の反射も効くので、この通りの値にはなりません。わたしが使えると考えているのは値そのものではなく、桁が違うという事実のほうです。
もう一つ、光源を下げるだけでも効きます。天井2.4mにある電球を、床上1.2mのフロアランプに移すと、机上までの距離が1.6mから0.4mになります。距離が4分の1になるので、同じ電球のまま机上の明るさは16倍です。強い照明を買い足す前に、いま持っている光源を下げるほうが先だという話になります。
JISも「併用」と書いています
面ごとに明るさを変える、という結論は、実はJISのほうが先に書いていました。住宅の推奨照度をまとめた表17に、注記としてこう添えられています。
それぞれの場所の用途に応じて全般照明と局部照明とを併用することが望ましい。
さらに「居間,応接室及び寝室については調光を可能にすることが望ましい」とも書かれています。部屋全体を一段階明るくするのではなく、面ごとに作って、時間帯で落とす。これが規格の側の推奨でした。
クリストファー・アレグザンダーの『パタン・ランゲージ』にも、Pools of Light (252) というパタンがあります。均一な照明は空間の社会的な性格を壊すとして、照明を低く離して置き、椅子やテーブルを包み込む個別の「光のプール」をつくることを勧めています(出典)。書かれたのは1977年ですが、言っていることは表17の注記とほぼ同じです。
一つ断っておくと、ここで引いているのはパタンの内容と規格の文言だけです。「囲われていると集中できる」といった心理の説明には踏み込みません。囲われ感を扱ったプロスペクト・リフュージ理論は、2016年のメタ分析で屋内での実証が限定的とされているためです。
ついでに拾えた、机まわりの寸法
わたしは明るさを調べるつもりで情報機器ガイドラインを開いたのですが、読んでいるうちに寸法の指定がいくつも出てきました。せっかくなので書き出しておきます。どれも原文の言葉です。
- ディスプレイまでは「おおむね40cm以上の視距離が確保できるようにし」
- 「その画面の上端が眼の高さとほぼ同じか、やや下になる高さにすることが望ましい」
- 表示する文字の大きさは「3mm以上とするのが望ましい」
- 「椅子に深く腰をかけて背もたれに背を十分あて、両足の裏面全体が床に接した姿勢を基本とする」
- 「椅子と大腿部膝背面との間には手指が押し入る程度のゆとりがあり」
- 「一連続作業時間が1時間を超えないようにし、次の連続作業までの間に10分〜15分の作業休止時間を設け」
画面の上端を目の高さかそれ以下に、というのは、このサイトで前に書いた「囲う家具の高さ」と同じ考え方です。座ったときの目線が、部屋の中の基準線として何度も出てきます。
まとめ
在宅の机の明るさに出てくる数字は、根拠の強さで4段階に分かれています。事務所衛生基準規則の300ルクスは義務ですが、対象は事務所で、自宅の机には及びません。情報機器ガイドラインの300ルクスは「同等となるよう助言することが望ましい」という位置づけで、国が自宅向けに出したチェックリストには数値が1つも書かれていません。
自分で決めるしかない、ということです。そのときの手がかりがJIS Z 9110で、明るさを測る面を床上0.8mと床上0.4mの2つに分けています。机に向かう面と、床にすわる面。その差は40cmです。
必要な明るさは、団らんの200ルクスから仕事の750ルクスまで3段、倍率にして3.75倍。この差を天井の照明で埋めると、床上40cmの面にも352ルクスがこぼれます。手元から埋めれば7.6ルクスで済みます。部屋を明るくするのではなく、面を明るくする。JISの表17も、アレグザンダーも、同じことを書いていました。
同じ部屋で仕事と暮らしをするときに分けるものは、床の面積ではありません。床からの高さです。
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「仕事と暮らしが同じ部屋のとき — 明るさの基準面は、床上80cmと40cmの2つあります」への1件のフィードバック