「置けるか」より先に、「運べるか」があります
ソファを選ぶとき、まず部屋に置けるかを考えます。6畳に幅2mは大きすぎないか、まわりに通路は残るか。わたしもそう思って、商品ページの寸法欄ばかりを見ていました。ところが、買った人がつまずくのはもっと手前のようです。玄関から部屋までの通り道でした。
「ソファ 搬入経路」で検索してみると、上位はすべて家具の売り手でした。どのページにも「廊下の幅を測ってください」「曲がり角の奥行きも測ってください」と書いてあります。ところが、測った数字をどう判定するかを書いたページが、1件も見つかりませんでした。
数字のほうもばらついていました。「家具の寸法+10cm」「梱包で5〜10cm大きくなる」「天井は家具の最長辺+20cm」。根拠はどれも示されていません。そして曲がり角については、判定の言葉すらありませんでした。
通り道の数字は、すべて「歩く」ために決まっています
まず、住宅の通り道にどんな数字があるのかを調べました。住宅性能表示制度の高齢者等配慮対策等級は、日常生活空間の通路の有効な幅員を780mm以上(柱等の箇所は750mm)、出入口の幅員を750mm以上と定めています。共用部分の等級4では、エレベーターの出入口が800mm以上、かごの奥行きが1,350mm以上です(フラット35技術基準)。
建築基準法にも廊下の幅の規定があります。施行令119条は、共同住宅で住戸の床面積の合計が100㎡を超える階の共用廊下について、両側に居室があれば1.6m、それ以外は1.2mと表で定めています(e-Gov 建築基準法施行令)。
ただし、これらはどれも人が歩くため、車いすが通るための寸法です。フラット35の解説にも「介助用車いすの使用者が基本的な生活行為を行うことを容易にする」と書かれています。家具を運ぶために決められた寸法は、探した範囲では見つかりませんでした(建築基準法・同施行令・住宅性能表示の評価方法基準・フラット35技術基準)。
もうひとつ。住戸の中の廊下の幅には、建築基準法の下限がありません。119条が縛っているのは共用廊下のほうです。玄関を入ってからの通り道は、780mmという性能表示の目安があるだけ、ということになります。

まっすぐな廊下なら、いちばん短い辺で決まります
判定らしい判定を書いていたのは、大塚家具の解説でした。「搬入経路の横幅は、運びたい家具の横幅、奥行、高さのうち一番短いサイズ以上でないと通ることができません」(大塚家具)。家具を好きな向きに回してよいなら、いちばん細い断面を通せばいい、という意味です。
これは正しい判定です。ただしまっすぐな廊下でだけ成り立ちます。わたしは最初、この一文で搬入の話は終わるのだと思っていました。曲がり角の条件を式にしてみて、そうではないと分かりました。
曲がり角には、別の式があります
上位のページが曲がり角で持ち出すのは、√(幅²+奥行²+高さ²) という対角線でした。これは家具を斜めに傾けて、扉やエレベーターをくぐらせるときの数字です。平面で向きを変えるときには効きません。
幅aとbの廊下が直角に折れているところを、長さL・厚みwの板が回れる条件は、こう書けます。
L ≦ a/sinθ + b/cosθ - w/(sinθ×cosθ)
これがすべての角度θ(0°〜90°)で成り立つこと
厚みがゼロなら、この最小値は (a^(2/3)+b^(2/3))^(3/2) という形にまとまります。両側が780mmなら2,206mm。細い棒なら2.2mまで回せる計算で、閉じた式とコンピュータで探した最小値は小数点以下まで一致しました。
効いてくるのは厚みのほうでした。厚み40cmで1,406mm、54cmで1,126mm、60cmで1,006mm。並べていて気づいたのですが、両側の幅が同じとき、厚みが1cm増えるごとに、回せる長さはちょうど2cm減ります。いちばん厳しくなる角度は、厚みに関係なく45°のままでした。

無印良品の箱で、実際にやってみます
無印良品は商品ページに本体の寸法と梱包サイズの両方を載せています。ソファ本体・2.5シーターは、本体が幅193×奥行90.5×高さ75cm、梱包が195×93×54cm・60kgです(無印良品)。
この54cmを見たとき、わたしは書き間違いだと思いました。本体の高さより21cmも低いからです。理由は同じページに書いてありました。「ソファカバー・脚は別売りです」。脚のついていない箱が届くので、高さは本体表示より低くなります。
つまり、搬入で効くのは商品寸法ではなく梱包寸法です。奥行き90.5cmのソファは780mmの通路を12.5cm超えていますが、93×54cmの箱なら54cmの面を横にして通せます。ちなみに梱包と本体の差は幅+2cm、奥行き+2.5cmで、上位ページの「5〜10cm」とは合いませんでした。
では両側780mmの曲がり角ではどうでしょうか。寝かせれば厚み93cmで廊下に入らず、横に倒せば長さ1,950mmが限界1,126mmを824mm超えます。立てたときだけ、床への投影が93×54cmになって回れます。ここで効いているのは幅193cmという商品の顔ではなく、54cmという箱の厚みでした。

立てられるかどうかは、天井と扉が決めます
立てるということは、195cmぶんの高さが要るということです。建築基準法施行令21条は居室の天井の高さを2.1m以上と定めています。余裕は15cmしかありません。
しかもこの条文には続きがあります。「一室で天井の高さの異なる部分がある場合においては、その平均の高さによる」。下がり天井や梁があっても、平均が2.1mなら基準は満たします。さらに廊下は「継続的に使用する室」ではないので居室ではなく(建築基準法2条4号)、そもそも21条の対象外です。通り道の天井高だけは、実測するしかありません。
もうひとつの2,100mmは、エレベーターの出入口の高さでした。図を描いていて、天井高の下限とぴったり同じ数字だと気づきました。JIS A 4301の記号でいう6人乗り(450kg)は、出入口幅800mm、かご内法1,400×850mm、出入口高さ2,100mmです(規格本文のPDFは寸法表が画像で数値を読み取れなかったため、同じ記号体系で寸法表を公開している事業者の据付図から取りました)。
ここで3シーターが詰みます。本体227cmは立てても2,100mmをくぐれず、寝かせても227cmがかご内法1,400mmに収まりません。曲がり角とエレベーターのある経路では、3シーターという選択肢が消えます。逆にいえば、経路さえ確かめれば2.5シーターまでは通せます。

測るのは、3か所だけです
ここまでを、測る場所に翻訳するとこうなります。
| 測る場所 | 比べる相手 |
|---|---|
| いちばん狭い開口の幅(玄関ドア・室内ドア・廊下) | 箱のいちばん短い辺 |
| 曲がり角の両側の幅(a と b) | 立てた箱の長辺と、式の値 |
| その曲がり角の天井高(梁と照明を引いた有効高さ) | 箱のいちばん長い辺 |
メジャーは5.5mのものが1本あると、曲がり角の対角まで一人で測れます。数字を控えておけば、店で悩まずに商品ページの梱包サイズと突き合わせられます。
そして、通らないと分かったときの答えは「小さいソファにする」だけではありません。アームが組立式のもの、脚を外して運べるもの、分割して運べるもの。無印良品が脚を別売りにしているのも、おそらく同じ理由です。このサイトで書いてきた腰高の家具で囲うという話は、奥行きのある家具を選ぶ話でもあります。その奥行きは、搬入では厚みとして効いてきます。
まとめ
家具が入らないとき、止まっているのはたいてい部屋ではなく通り道です。そして通り道の数字は、どれも人が歩くために決まっていて、家具を運ぶための寸法は法令にも性能表示にも見つかりませんでした。
まっすぐな廊下なら、いちばん短い辺が通路幅を下回れば通ります。曲がり角はそれでは判定できません。両側780mmなら、厚み54cmの箱で回せるのは1,126mmまで。厚みが1cm増えるごとに、回せる長さは2cm減ります。両側1,200mmの共用廊下なら2,314mmまで上がるので、同じ箱が共用廊下では曲がれて、住戸の中の廊下では曲がれないということも起きます。
無印良品の2.5シーターの箱(195×93×54cm)は、立てれば回れます。立てるのに要るのは195cm。居室の天井高の下限2,100mmとの差は15cmしかなく、しかも下がり天井は平均で測られるので、ここだけは自分で測るしかありません。
このサイトでは「物を減らさずに広く見せる」と書いてきました。減らさないというのは、大きい家具をあきらめないということでもあります。だから、置ける寸法を測るのと同じだけ、運べる寸法を測っておく価値があります。
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