配線を隠す方法を調べていて、手が止まりました
部屋を広く見せる工夫をひととおりやったあとでも、床を走る黒いコードはたいてい最後まで残ります。わたしもその片づけ方を調べはじめたのですが、出てくる手順が「チューブでまとめる」「ボックスに入れる」でほとんど揃っていて、そこで手が止まりました。延長コードの本体には、束ねるなと書いてあるからです。
しかもそれは、メーカーが親切で添えた注意書きではありませんでした。電気用品安全法が、書けと決めている表示でした。まとめる道具と、まとめられる側の表示が、正面からぶつかっています。
そこでこの記事では、配線を「隠すもの」ではなく「寸法を決めて買うもの」として扱ってみます。根拠にするのは、国の機関と自治体が公表している資料と、メーカーの公表値だけです。数字が出てくる資料が、思っていたよりずっとたくさんありました。
「束ねて使用しないこと」は、法律が書かせている表示です
テーブルタップや延長コードは、電気用品安全法では「延長コードセット」という名前で、特定電気用品に指定されています。特定電気用品は、危険や障害が発生するおそれが特に多いものとして政令で定められた区分で、現在116品目あります。冷蔵庫やテレビより厳しい側の扱いです。
その延長コードセットに義務づけられている表示は、7項目あります。埼玉県消費生活支援センターが市販品15銘柄を調べた報告書に、そのまま並んでいました(テーブルタップの発熱等に関するテスト)。
- 定格電圧及び定格電流
- 最大電力又は定格電流
- 束ねて使用することを禁止する旨
- 延長コードセットの「コ」の文字
- PSEマーク(ひし形)
- 「適合性検査」を行った国の指定機関の氏名又は名称
- 届出事業者の氏名又は名称

3番目です。定格電圧やPSEマークと同じ列に、束ねるなという一文が並んでいます。パナソニックの配線器具カタログを見ると、この項目は「最大電力」「適合表示[コ]」と一緒に、法改正のときにあとから追加された表示だとわかりました(電気用品安全法改正について)。事故が増えたので足された、という順序です。
改正の時期は、資料によって書き方が違いました。パナソニックは「2012年1月13日改正」、埼玉県は「表示が義務付けられた日(平成25年1月13日)」としています。公布と義務化の日と読めば1年差の説明はつきますが、省令の原文にあたれていないので断定はしないでおきます。
配線をまとめる道具の多くは、束ねる形をしています。けれど束ねられる側には、束ねるなと印刷されている。この記事の出発点は、この食い違いです。
火災の原因で多いのは、容量オーバーより「踏まれること」

では、束ねると何が起きるのでしょうか。その前に、配線器具の火災が実際にどんな原因で起きているのかを見ておきます。NITE(製品評価技術基盤機構)が2024年1月に出した資料に、5年ぶんの件数と内訳が載っていました(無頓着は火事の元!)。
2019年から2023年の5年間で、配線器具の火災事故は126件でした。年別では15件、22件、29件、32件、28件です。資料の見出しは「5年で2倍」で、2023年を2019年で割るとたしかに1.87倍になります。
ただし、いちばん多いのは2022年の32件で、2023年は前年より4件減っています。NITEの本文も「増え続けている」ではなく「近年高止まりの傾向」という書き方でした。並べてみると、そう読むのが正確です。
この126件のうち、使い方や設置状況が要因とみられる50件について、内訳の表が付いています。
| 事故のかたち | 件数 |
|---|---|
| ほこり・水分によるトラッキング現象 | 18 |
| 外力で栓刃と刃受け金具が接触不良 | 14 |
| 外力で栓刃の可動部が接触不良 | 7 |
| 最大消費電力を超える接続 | 5 |
| 外力でコードが断線してショート | 3 |
| その他 | 3 |
ここで順番が、わたしが身構えていたのと逆になりました。外から力が加わったことが要因のもの(2番目・3番目・5番目)を足すと24件あり、最大消費電力を超えた接続は5件です。4.8倍の差がついています。配線の記事でいちばんよく警告されるのは、たこ足配線、つまり容量オーバーのほうなのに。
NITEが挙げている事故例も、「使用者がテーブルタップに足を引っ掛けて電源プラグ部に外力が加わった」というものでした。気を付けるポイントの原文はこうです。
机や椅子の脚などでコードを踏みつけたり、足に引っ掛けたりしないよう、配線は設置状況に注意し
設置状況、と書いてあります。どこを通すか、どこに置くか。これは電気の話であると同時に、部屋の寸法の話です。床からコードを消すのは見た目のためだと思っていましたが、件数で見るかぎり、いちばん多い原因を減らす手でもありました。
ひとつ注意点も書いておきます。内訳が示されているのは126件のうち50件、39.7%だけです。残る76件の内訳は資料にありません。ですから「配線器具の火災の48%が外力によるもの」とは言えず、正確には「分類が示されている50件のなかで48%」になります。
どれくらい熱くなるかは、県が測っています

温度についても、実測した資料があります。さきほどの埼玉県のテストで、市販のテーブルタップ15銘柄に400ワットから1850ワットまで流し、表面温度を4か所で測っていました。読み取れたことは3つです。
800ワットまでなら、コード部分は15銘柄のどれも室温プラス10℃を超えませんでした。ところが1500ワットになると、15銘柄すべてがプラス10℃を超えます。いちばん高かったのは差込プラグで、室温プラス61.9℃。室温28.9℃を足して、実測90.8℃という値でした。
資料は「測定値と室温の差が22℃を超えると、室温28℃のときに50℃になり、低温やけどを起こす可能性がある」という基準で読んでいます。1850ワットではほとんどの製品がここを超えました。ただし1850ワットは定格を超える条件で、県も「安全に配慮し特別な機器を用いた」と断ったうえで測っています。
もうひとつ、意外だったのが熱くなる場所です。県の結論はこうでした。
マルチタップ部分と比較すると差込プラグとコードの部分の温度上昇が大きい傾向があることが分かりました。
差込口が並んでいる本体よりも、壁に挿さっているプラグと、床を這っているコードのほうが熱くなる。放熱を妨げてはいけない相手は、まさにこの2つでした。束ねるのはコード、隠したくなるのは本体。守りたい順序と、手が伸びる順序が食い違っています。
1500ワットという寸法と、ブレーカーが落ちない500ワットの隙間
容量オーバーが1位ではないとしても、5件は起きています。ここも数字で押さえておきます。テーブルタップの定格は、一般に15アンペア・1500ワットです。100ボルトで割ると 1500 ÷ 100 = 15アンペアで、ぴったり一致します。
見落としやすいのは、壁のコンセントも二口の合計で1500ワットまでだという点です。NITEの資料に明記されていました。片方に1000ワットの機器を挿したら、もう片方に使えるのは500ワットまでになります。タップを増やしても、壁側の上限は増えません。
家電の消費電力の目安も、NITEが表にしていました。
| 電気製品 | 消費電力 |
|---|---|
| 電子レンジ(30リットルクラス) | 1,500W |
| 電気ケトル | 1,200〜1,400W |
| オーブントースター | 1,300W |
| ヘアドライヤー | 600〜1,200W |
| 掃除機 | 1,000〜1,100W |
| エアコン(100ボルト) | 440〜1,040W |
| 冷蔵庫 | 150〜500W |
| 液晶テレビ(50インチ) | 120〜160W |
| 空気清浄機 | 100W |
電子レンジ1台で、タップの定格を使い切ります。NITEが挙げていた例は、オーブントースター1200ワットと炊飯器1240ワットで合計2440ワット。1500ワットの1.63倍でした。
ここで、ブレーカーの話が出てきます。タップの定格を超えても、ブレーカーはすぐには落ちません。一般家庭の配線用遮断器は定格20アンペアで、動作までの最大時間が決められています。25アンペア(約2500ワット)で最大60分、40アンペア(約4000ワット)で最大2分。そして20アンペア、約2000ワットでは作動しません。
つまり1500ワットから2000ワットまでの500ワットぶんは、タップの定格を超えているのにブレーカーが落ちない領域になります。落ちないから大丈夫、という判断はここでは効きません。守るべき数字は分電盤ではなく、手元のタップに印刷されているほうです。
だから、隠すより先に「余らせない」
ここまでで、配線について守りたいことが3つ出そろいました。束ねない。踏まれる場所を通さない。定格を超えない。このうち最初の2つは、実は同じところから生まれています。コードが余っているからです。
余った長さは、どこかに行かなければなりません。行き先はふたつしかなくて、束ねるか、床に置くかです。束ねれば法定の禁止事項に触れ、床に置けば踏まれる24件のほうに近づきます。まとめる道具をいくら足しても、この二択そのものは動きません。
そして、この二択を作らない方法を、埼玉県の報告書がはっきり書いていました。消費者へのアドバイスの「購入時」の項目です。
コード長についても、長すぎると束ねることになったり、短すぎると引っ張って使用することになったりすると発熱や発火につながる場合があるため、適切な長さを選ぶ必要があります。
長すぎても短すぎてもいけない。公的機関が、コードの長さを「選ぶもの」として書いている箇所です。わたしはここを読んだとき、この記事は配線の記事ではなく寸法の記事になるな、と思いました。
コードの長さは、壁沿いで測ります

では適切な長さはどう決めるのか。ここで測り方が問題になります。コンセントから機器までの距離は、直線では測れません。床を横切らせないつもりなら、コードは壁ぎわを回るからです。
江戸間6畳、261×352センチで計算してみます。部屋の隅にコンセントがあり、対角の隅に机がある場合、直線距離は4.38メートルです。ところが壁沿いに2辺を回ると6.13メートルになります。差は1.75メートル、1.4倍です。床を横切らせないという判断だけで、必要な長さがこれだけ変わります。
この差が、そのまま選ぶ製品を変えます。パナソニックのザ・タップXのコード長は、1メートル・2メートル・3メートル・5メートルの4種類でした。0.5メートルや1.5メートルはありません(商品ページ)。直線の4.38メートルなら5メートルが選べます。ところが壁沿いの6.13メートルは、この4種類のどれにも収まりません。
正直に書くと、ここは図を描いてから気づきました。最初は「壁沿いの長さで買いましょう」で締めるつもりだったのですが、平面図に線を引いて数字を出したら、その長さの製品が売っていなかったのです。それで結論を書き換えました。壁沿いで測って届かないなら、買う長さではなく、机かコンセントのほうを動かす。順序としては、こちらが正しいはずです。
短いほうの例も出しておきます。壁ぎわの机で、コンセントから1.2メートルの場合です。
| 必要な長さ | 選べる製品 | 結果 |
|---|---|---|
| 1.2 m | 1 m | 20 cm 足りず、引っ張ることになる |
| 1.2 m | 2 m | 80 cm 余る(必要な長さの66.7%) |
1メートルでは届かず、2メートルでは80センチ余ります。必要な長さの3分の2が余りになるわけです。きざみが1メートル単位である以上、余りをゼロにはできません。ですから現実の目標は、余りを最小にして、その余りを踏まれない場所に置くことになります。
床のコードは、面積0.14%で床を分けます
ここでこのサイトらしい話をひとつ。床に置かれたコードは、面積としてはほとんど何も占めていません。家庭用のコードによく使われるVCTFKという規格の仕上り外径は、0.75平方ミリのもので4.3ミリ×6.6ミリです(富士電線工業の構造表)。
床から見た幅は6.6ミリ。2メートルぶんを床に置くと 6.6 × 2000 = 13,200平方ミリ、つまり0.0132平方メートルです。江戸間6畳の床9.1872平方メートルに対して0.1437%になります。床が見える面積の記事で出した家具3点の占有率29.54%と比べると、206倍の差です。
それでも、床にコードが1本あると部屋は狭く見えます。占めているのではなく、分けているからです。ラグの記事では「床が見えている面積が残るほうが広く見える」と書きましたが、コードが効くのはそこではありません。残っている床を、線で2つに切っているほうです。
同じ0.14%でも、部屋の真ん中を横切る2メートルと、壁ぎわを回る2メートルでは、見え方がまったく違います。面積は同じで、分割の有無だけが違う。部屋には、面積では説明できない寸法があります。なんとなく狭いと感じるとき、原因が寸法にあることは本当に多いのです。
そして幸運なことに、床を分けない置き方と、踏まれない置き方は同じでした。壁ぎわを回す。見た目のための工夫が、そのまま24件のほうの対策になります。
ケーブルボックスについては、正直に書きます
配線の記事でほぼ必ず出てくるケーブルボックスについて、調べた結果を書いておきます。公的機関の資料は、見つかりませんでした。NITE・消防庁・自治体の消費生活センターを探しましたが、ケーブルボックスを名指しした注意喚起も試験結果も見当たりません。
販売店は「スリットがあるので安全」と書き、個人のブログは「熱がこもって危険」と書いています。けれどどちらも数値の裏づけを示していないので、わたしにもどちらが正しいかは言えません。ここで断定するのは、上位のページと同じことをするだけになります。
かわりに、言える材料を2つ置いておきます。ひとつ。埼玉県が測った「差込プラグ」は、壁のコンセントに挿さるほうのプラグです。ボックスの中に入るのは通常マルチタップと機器側のプラグなので、同じ形をしていても、測られたのは別の場所になります。ボックス内部の温度を測ったデータは見つかりませんでした。
ふたつ。県のテストで温度上昇が大きかったのは差込プラグとコードで、マルチタップ本体ではありませんでした。ボックスに入れて放熱を妨げたくない相手は、その意味では箱の外にいます。箱に入れるかどうかより、箱に入れる前のコードが余っているかどうかのほうが、根拠のある話だと思います。
最後に、使いはじめた日を書いておきます
寸法の話ばかり書いてきましたが、最後に寸法ではない話をひとつ。テーブルタップには寿命があります。埼玉県がテスト用に買った製品のパッケージには「テーブルタップは消耗品であり、5年を目安に更新が必要」と書かれていました。パナソニックも「3〜5年経過すると傷みが生じてくる場合があります」としています。
法律の側にも、この年月に対応する試験がありました。通電サイクル試験といって、定格電流の1.2倍を45分流して45分休ませる、を125回繰り返します。合格の条件は、25回目と125回目の温度の差が8℃以下であること。使ううちに温度が上がっていかないこと、が数字で決められているわけです。
県の点検リストは6項目でした。コードが部分的に熱くなっていないか。変形・変色・焦げがないか。抜き差しがゆるくなっていないか。ひび割れやキズ、戻らないねじれがないか。栓刃が曲がっていないか。差込口にほこりがたまっていないか。目安は1年ごとだそうです。
いちばん簡単なのは、買った日をマルチタップの裏に書いておくことでしょうか。県も「マルチタップに直接使用開始日を記載するなど」と勧めています。5年後の自分に、判断の材料をひとつ残しておく、という話です。
まとめ
配線をまとめる道具は束ねる形をしていますが、延長コードには「束ねて使用することを禁止する旨」が法律で表示させられています。法定の7項目のうち、3番目です。
火災の原因は、順番が思っていたのと違いました。分類が示されている50件のうち、外から力が加わったものが24件、最大消費電力の超過が5件で、4.8倍の差があります。そして束ねることも踏まれることも、コードが余っているところから始まります。余りは束ねるか床に置くかしかなく、どちらも避けたい側に落ちるからです。
だから配線は、隠す前に長さを決めて買います。測るのは直線ではなく壁沿いです。江戸間6畳の対角なら、直線4.38メートルに対して壁沿いは6.13メートルで1.4倍。市販のコード長は1・2・3・5メートルのきざみなので、届かないときは机かコンセントのほうを動かします。
床のコードが占める面積は、6畳に2メートルで0.1437%。家具3点の29.54%と比べて206倍の差があります。それでも狭く見えるのは、面積を取っているからではなく、床を分けているからです。壁ぎわを回せば、分割も消えて、踏まれる危険も減ります。
配線は、隠すものではありません。買う前に、寸法を決めておくものです。
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