エアコンの風の寸法 — 「背の高い家具はダメ」を数字にする

エアコンが効かないとき、疑う順番

冬になると「暖房をつけているのに足元が寒い」という話をよく聞きます。そういうとき、たいていの人はまず設定温度を上げて、次にエアコンの古さを疑います。でも設定温度でも機械の性能でもなく、風の通り道に家具が立っているだけというケースがかなりあります。

このことは、部屋づくりの記事でもよく書かれています。ただ、この記事のために読み比べていて、わたしはひとつ気になることがありました。どのページも「エアコンの正面に背の高い家具を置かない」と書いているのに、その”背の高い”が何cmからなのかを、誰も書いていないのです。

代わりに数字は、メーカーの公式発信のほうにありました。ただしそれは家具の数字ではなく、風の角度です。この記事では、メーカーが公表している角度を家具の寸法に翻訳してみます。答えが一つの数字ではなく、高さ・奥行き・置く位置の3つの組み合わせになるところが、たぶんいちばん面白い部分です。

冷房は水平、暖房は下向き — 理由は空気の重さ

まず前提から確認します。エアコンの風向には、冷房と暖房で逆の正解があります。ダイキンの節電情報のページには、冷房についてこう書かれています。

温度ムラを抑えるためには、風の向きを上向きか、もしくは水平方向に調整して、冷たい空気が上から下に循環するようにしましょう。

— ダイキン「エアコン節電情報」

暖房は逆です。三菱電機の霧ヶ峰の公式発信は、角度まで具体的に示しています。

吹出し角度は水平に対して60°以上、下向きの風向設定がおすすめです。

— 三菱電機 霧ヶ峰PR事務局「エアコン暖房、効率良く使うには風向がカギ!?」(2019年)

理由は空気の重さにあります。乾燥空気の密度を計算すると、20℃で約1.20kg/m³、40℃で約1.13kg/m³。温度が20℃違うと、重さが約6.4%違います。冷気は重いので、高く吹けば勝手に降りてきます。温風は軽いので、浅い角度で吹くと床に届く前に天井へ逃げてしまいます。

冷房は水平・暖房は60°以上下向きという風向の違いを比べた断面図

だから冷房は水平に、暖房は床に向かって吹く。ここまではメーカーの原文で確認できる話です。ここから先が、このサイトの本題になります。60°という角度は、家具の寸法に翻訳できるのです。

60°の風は、どこに降りるのか

三菱電機の同じ発信には、もうひとつ大事な一文があります。「温風は床面に届いて床を伝って部屋全体に広がる性質があります」。つまり暖房の風は、まず床のどこかに着地して、そこから先は床を這って進むわけです。着地点までの斜めの線こそが、家具に遮られては困る区間になります。

計算してみます。吹出口の高さをここでは床上2.0mと置きます。天井2.4mの部屋で、据付の隙間と室内機の高さぶんを引いた、だいたいの位置です。60°の直線で降りるとすると、着地点は 2.0 ÷ tan60° で、吹出口の真下から約1.15mになります。

正直に書くと、この1.15mという数字が出たとき、わたしは思ったより手前だなと感じました。江戸間6畳の短辺が2.61mなので、その約44%です。部屋の半分より手前で、風はもう床に着いていることになります。言い換えると、エアコンの壁から1.15m以内が、暖房にとっての急所です。

その急所に家具が立つとどうなるか。60°の線は壁から離れるほど低くなるので、風を遮ってしまう高さは、家具を置く位置によって変わります。

吹出口からの水平距離この高さ以上の家具が風を遮る
30cm148cm
60cm96cm
90cm44cm
約115cm着地点 (ここから先は床を伝う)
暖房の風が60°で降りる断面と、遮る家具の高さの目安を示した図

着地点の少し手前では、高さ44cmのテレビ台でも風を遮る計算になります。「背の高い家具を置かない」という言い方が数字にならなかった理由は、たぶんこれです。遮るかどうかは高さだけでは決まらず、位置とセットでしか言えないのです。

なお、これは温風が60°の直線で進むと仮定した幾何の計算です。実際のエアコンは気流を細かく制御しているので、この線はあくまで「いちばん浅い角度の風」の目安として使ってください。

エアコンの真下は、意外と自由

では、エアコンの真下はどうでしょうか。ここが今回の計算でいちばん意外だった点です。わたしは最初、エアコンに近いほど家具はだめだと思い込んでいました。ところが幾何で見ると逆で、吹出口に近いほど、風はまだ高いところを通っています。

風を遮るかどうかを決めているのは、家具の手前の上の角です。壁にぴったり付けた家具なら、手前の角の位置は奥行きで決まります。角が60°の線に触れなければ、温風は家具の上を素通りします。上限を計算すると、次のようになりました。

家具の奥行き高さの上限 (これ以下なら温風が上を通る)
30cm (本棚など)148cm
45cm (テレビ台など)122cm
60cm (チェストなど)96cm
エアコンの下に置ける家具の高さ上限を奥行き30・45・60cmで比べた図

きれいな比例です。奥行きが15cm増えるごとに、置ける高さの上限は約26cm下がります。奥行き30cmの本棚なら148cmまで許されるのに、奥行き60cmのチェストは96cmまで。エアコンの下の家具選びは、高さより先に奥行きを見るほうが理にかなっているわけです。

式にしておきます。吹出口が床上2.0mなら、高さ ≤ 200 − 1.73 × 奥行き (cm) です。吹出口の高さが違う部屋では、200をその高さに置き換えれば同じように計算できます。メジャーで測るのは吹出口の下端までの高さ1つだけです。

96cmという数字に、見覚えがありました

ここでひとつ、わたしが書きながら気づいたことがあります。奥行き60cmの家具の上限96cmという数字は、囲う家具の高さの記事で書いた「座ると囲われ、立つと視線が抜ける」腰高の帯 (1000mm前後) とほぼ同じです。

あの記事は視線の通り道から家具の高さを決めました。今回は風の通り道から計算したのに、別の理屈から出発してほぼ同じ高さに着地したことになります。腰高の囲いは視線だけでなく温風も抜けさせる、と言えるだけの計算にはなっていて、広く見せるための囲いの高さは、暖房の効きも損ねていませんでした。

冷房のとき、家具の高さはほぼ効かない

念のため冷房側も見ておきます。冷房の風は水平に吹くので、吹出口 (床上約2.0m) より低い家具は、壁ぎわに置くかぎり風の通り道にほぼ関わりません。家具の高さが効くのは、実は暖房だけなのです。夏に問題がなかった配置が冬に効かなくなるのは、風の角度が季節で変わるからでした。

ただし冷房には冷房の急所があります。ダイキンのページには、天井付近で室温を検知しているエアコンが温度ムラで「勘違い」する、という話が出てきます。

部屋の中に上が熱くて下が冷たい温度むらができていると、エアコンが「設定温度になっていない」と勘違いをして必要以上に部屋を冷やし、余分な電気を使うことがあります。

— ダイキン「エアコン節電情報」

対策としてダイキンが挙げているのが、扇風機やサーキュレーターの併用です。置き方も具体的で、エアコンの風を背にして、同じ方向へ送るのが夏の使い方。冬は逆に、三菱電機が下から上に向けて回し、天井に溜まった暖気を混ぜる使い方を勧めています。数千円の道具ひとつで、夏と冬の両方に使えます。

エアコンは動かせない。動かせるのは家具

賃貸では、エアコンの位置は選べません。でもこの記事の計算は、動かせないことを前提にしても全部使えます。動かすのは家具のほうだからです。手順は3つだけです。

まず、吹出口の真下から1.15mのところに、養生テープで床に線を引きます。メジャーとテープがあれば1分で終わります。これで暖房の急所が見える線になります。ラグの記事でも書いた方法ですが、床に貼ったテープは、頭の中の想像よりずっと正確です。

次に、その線より壁側にある家具を、さっきの表と比べます。上限を超えている家具は、線の外へ動かすか、低いものに替えます。逆に言うと、線の外側なら高い家具を置いても暖房には響かないので、背の高い本棚の置き場所はそちらに寄せれば済みます。

着地線とサーキュレーターの位置を示した江戸間6畳の平面図

最後に、左右の風向です。三菱電機は左右フラップを「部屋の中で多くの時間を過ごす場所」へ向けることを勧めています。人は足元が暖かいと、設定温度が低めでも快適に過ごせるからです。設定温度1℃の違いは消費電力の約10%に相当するので、風向の調整はそのまま節電になります。

まとめ — 風の通り道も、見えない寸法のひとつ

このサイトでは以前、部屋には動線と光の通り道という「見えない寸法」がある、という話を書きました。今回の計算で、そこに3つ目が加わりました。風の通り道です。

暖房の風は水平から60°以上で降りてきて、真下から約1.15mに着地し、床を伝って広がります。その斜めの線に触れる家具だけが暖房の邪魔をします。遮るかどうかは高さ・奥行き・位置の組み合わせで決まり、壁付けなら高さ ≤ 200 − 1.73 × 奥行きが目安です。冷房は水平に吹くので、この心配は要りません。

エアコンの正面がなんとなく物置きになっている部屋は多いと思います。床にテープを1本貼って、線の内側だけ片付けてみてください。片付ける範囲は、部屋全体ではなく壁から1.15mだけです。

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