倒れにくい家具の寸法 — 「背の高い家具は危ない」は半分だけ正しい

「背の高い家具は危ない」に、数字がついていません

地震のニュースのたびに、部屋の棚を見上げて少し不安になります。それで対策を調べると、どのページもだいたい同じことを書いています。背の高い家具は倒れやすい、背の低い家具のほうが安全、重い物は下に。

方向はどれも正しいのですが、読み比べているうちに、わたしは手が止まりました。その「背が高い」が何センチからなのか、どこにも書いていないのです。

一方で、これは見た目だけの話ではありません。東京消防庁のハンドブックによると、近年の地震でけがをした人の約30〜50%は、家具類の転倒・落下・移動が原因でした。熊本地震の一般住宅で29.2%、宮城県北部地震では49.4%。部屋づくりの話であると同時に、はっきりと安全の話です。

調べていくと、国の技術資料に、倒れやすさを寸法から計算する式が載っていました。しかも計算してみると、「背の高い順に危ない」という思い込みのほうが先に崩れました。今回はその式を、家具を買うときに使える目安の形まで下ろしてみます。

倒れやすさは、高さの順に並びません

国土技術政策総合研究所 (国総研) の資料に、代表的な家具の「転倒限界加速度」の表があります。揺れがどこまで強くなると、家具が浮き上がりはじめるかを表す数字で、単位はgal (ガル、cm/s²) です。この数字が小さい家具ほど、弱い揺れで浮き上がる、つまり倒れやすい家具ということになります。

家具高さ奥行き転倒限界加速度
食器戸棚190cm45cm232gal
本棚180cm32cm174gal
洋服だんす180cm60cm327gal
整理だんす140cm45cm315gal
ダイニングテーブル110cm60cm535gal
置物30cm8cm261gal
家具の倒れやすさが高さの順に並ばないことを国総研の計算値で示した図

出典: 国総研 技術資料 参考資料4-A 表3

背の高い順に並べ直すと、おかしなことが起きます。最も倒れやすいのは、最も背の高い食器戸棚 (高さ190cm・232gal) ではなく、それより10cm低い本棚 (174gal) でした。

さらに下を見ると、高さ30cmしかない置物 (261gal) が、高さ110cmのダイニングテーブル (535gal) より倒れやすいという逆転まで起きています。

わたしも最初は、この表を高さの低い順に並べ替えれば、そのまま安全な家具の順番になると思っていました。実際に並べ替えてみて、思い込みだったと分かりました。倒れやすさを決めているのは高さそのものではなく、別の量だったのです。

決めているのは、奥行きとの比です

家具が倒れるてこの釣り合いと重心の高さの図解

家具が倒れるのは、てこの釣り合いが崩れたときです。支点になるのは前の脚。揺れの力は重心を横に押し、重さは重心を真下に引き戻します。押す側のうでの長さが「重心の高さ」、踏ん張る側のうでの長さが「奥行きの半分」。この綱引きで勝ち負けが決まります。

中身が均等に入った家具なら重心は真ん中に来るので、式は1行になります。転倒限界加速度 A0 = 奥行き ÷ 高さ × g(gは重力加速度)。表の数字はすべてこの式から出ていて、本棚の174galは 32÷180×980 の値です。テーブルが強いのは、高さ110cmに対して奥行きが60cmもあるからでした。

注意をひとつ。この式が示すのは「浮き上がりが始まる線」であって、「必ず倒れる線」ではありません。実際の揺れでは、片側が浮いてもゆらゆら戻るだけで済むことも多く、国総研の資料は「転倒率50%となる加速度」を別に (より大きい値で) 示しています。目安の比較には使えるが、安全の保証には使えない数字として扱います。

手持ちの棚で計算してみます

式に必要なのは高さと奥行きだけなので、メーカーの公表寸法があれば誰でも計算できます。わたしは無印良品のスタッキングシェルフでやってみました。この棚を選んだのは、公式ページが「タテでもヨコでも使えます」とうたっている、置く向きを変えられる家具だからです。

置き方公表寸法 (幅×奥行×高さ)奥行÷高さ転倒限界
5段・縦置き42×28.5×200cm0.14140gal
3段×3列122×28.5×121cm0.24231gal
5段・横置き高さが42cmになる0.68665gal
同じ棚を縦置きと横置きで比べた転倒限界の図

同じ棚なのに、縦に置くと140gal、横に倒してテレビ台のように使うと665gal。4.76倍の差がつきました。奥行き28.5cmは1mmも変わっていません。変わったのは高さだけです。「背の低い家具のほうが安全」と言われてきたことの中身は、正確にはこの比の話でした。

計算はどれも、中身が均等に入った棚という仮定の上にあります。それでも買う前の比較には十分で、商品ページの寸法欄から奥行きと高さを拾って割るだけです。気になっている家具があれば、電卓で30秒あれば出ます。

「重い物は下へ」も、寸法の話でした

式を重心の言葉で読み直すと、「重い物は下に」の意味もはっきりします。重心が上がるほど押す側のうでが伸びて、同じ揺れでも倒れやすくなります。5段の棚で重い物を上段に寄せ、重心が30cm上がったと仮定すると、140galは107galまで落ちます。逆に下段へ寄せて30cm下げると、200galまで上がります。

東京消防庁のハンドブックにも「重いものを下に収納し、重心を低くすることで倒れにくくしましょう」とあります。本をぎっしり入れた本棚が名指しで危ないと言われるのは、ただ重いからではなく、頭より上の段にまで重さが積み上がるからでした。よく使う重い物ほど、下の段へ。収納の見た目の話に聞こえて、実は力学の話です。

それでも「固定しなくていい」にはなりません

正直に書くと、ここまで計算した時点で、わたしは「比率のいい家具を選べば固定は要らない」という結論にしたくなっていました。でも気象庁の解説表が、それを許しませんでした。震度階級関連解説表の「屋内の状況」には、こう書かれています。

震度5強: 固定していない家具が倒れることがある

震度6強: 固定していない家具のほとんどが移動し、倒れるものが多くなる

(気象庁震度階級関連解説表)

「ほとんどが移動し」の主語は、固定していない家具の全部です。比率のいい家具は倒れにくいだけで、揺れれば代わりに滑って動きます。国総研の資料でも転倒と滑りは別の式で評価されていて、どちらか起きやすいほうが先に起きる、という整理です。横置きの棚が30cm手前に出てくるだけでも、避難の通り道は塞がります。

固定の効き目には、順序があります

東京消防庁の実験による固定器具の効果の順序

では何で固定するか。ここには東京消防庁の実験があります。震度6強を再現した揺れで対策器具を比べたもので、結論は明快でした。「家具をL型金具などで壁に直接ネジ固定する方法が最も効果が高い」。単独使用の順序では、ストッパー式と粘着マット式がいちばん下、次にポール式 (突っ張り棒式)、上位はL型金具です。

賃貸で壁にネジを打てない場合の答えも、同じ実験から出ています。「ポール式やすき間家具などで家具を固定する場合は、ストッパー式や粘着マット式を併用すると効果が高い」。単独では最下位の器具が、突っ張りと上下で組むと効果の高い側に入ります。突っ張り棒だけで安心するのも、マットだけで安心するのも、実験結果とは合いません。

ポール式には、置き方にも寸法の決まりがあります。立てる位置は家具の両端、壁側の奥。天井に強度がなければ、家具の幅以上の当て板を1枚かませます。奥行きのない家具や、天井との間隔が大きい場合は不向きです。

賃貸の壁の記事で書いた有孔ボードの上下突っ張りと同じで、突っ張りという道具は、効かせる位置まで含めて寸法の道具でした。

広く見える寸法と、倒れにくい寸法は同じ側にあります

このサイトでは、部屋の真ん中の居場所を腰高の家具で囲うと、物を減らさずに広く見える、という話を書いてきました。座った目線より下に収まる高さの家具は、視線を抜けさせるだけでなく、今回の式では分母の小さい側、つまり倒れにくい側に立っています。

東京消防庁のハンドブックにも「『寝る場所』や『座る場所』にはなるべく家具を置かないようにしましょう。置く場合には背の低い家具にするか、家具の置き方を工夫します」とあります。人がいちばん長くいる場所の周りほど低い家具にする。防災の資料と部屋づくりの結論が、同じ配置を指していました。

まとめ

倒れやすさは高さではなく、高さと奥行きの比で決まります。浮き上がりの目安は A0=奥行き÷高さ×g。高さ30cmの置物が110cmのテーブルより倒れやすいのは、この比のせいです。買う前に商品ページの寸法で割り算をして、置く向きを選び、重い物は下の段に入れます。

そして比率がよくても、震度6強では固定していない家具のほとんどが動きます。壁にネジを打てるならL型金具、打てない部屋ならポール式にストッパー式かマット式を併用します。倒れにくい寸法を選ぶことと、固定すること。順番に両方やるのが、部屋を広く見せながらできる、いちばん安い地震対策だと思います。

※この記事にはアフィリエイト広告が含まれます。

コメントする