本が増えてくると、床が心配になります
本や物が多い部屋に住んでいると、一度は「床は大丈夫だろうか」と考えます。調べるとすぐに「住宅の床は1㎡あたり180kgに耐えるよう設計されている」という数字が出てきます。数字が出てくるところまでは、どのページも同じです。
ところがそこから先の結論が、まるで揃っていません。同じ180kgから出発して、「単行本80冊で床が抜けるかもしれない」と書くページもあれば、「本は6,000冊まで大丈夫」と計算するページもあります。冊数にして75倍の開きです。わたしはこの2つを並べて読んで、どちらを信じればいいのか分からなくなりました。
こういうときは、言い換えを読み比べるより、出どころの原文を読むほうが早いです。「180kg」の出どころは、建築基準法施行令の第85条でした。そして原文を読むと、バラつきの理由も見えてきます。
出どころの条文には、数字が3つ並んでいます
施行令85条は「積載荷重」、つまり建物そのものの重さとは別に、人や家具など「後から載るもの」の重さをどう見込むかを定めた条文です。住宅の居室について、表にはこう書かれています。
| 構造計算の対象 | 定められた数値 | kgに直すと |
|---|---|---|
| 床の計算をする場合 | 1,800 N/㎡ | 183.55 kg/㎡ |
| 大梁・柱・基礎の計算をする場合 | 1,300 N/㎡ | 132.56 kg/㎡ |
| 地震力を計算する場合 | 600 N/㎡ | 61.18 kg/㎡ |
出典: 建築基準法施行令 第85条 (e-Gov法令検索)
まず、よく引かれる「180kg」の正体は1つめの1,800N/㎡で、kgに直すと183.55kg。つまり180という数字自体が、すでに丸めた値です。
そして見てのとおり、数字は1つではなく3つあります。同じ住宅の居室なのに、床には183.55kg、大梁や柱には132.56kg、地震の計算には61.18kgを使う。対象が広くなるほど数字が小さくなっていくのは、「部屋のすみずみまで同時に満載」は、対象が広いほど起きにくいからだと説明されています (この理由づけは条文には書かれていないので、一般的な解説として添えておきます)。
「うちの床は180kgまで」と1つの数字で覚えると、この構造ごと落ちてしまいます。180kgは3つある数字のうち、いちばん条件の厳しい床用の値でした。
条文の最初の一文が、いちばん大事でした
わたしは最初、この条文を「1㎡の枠ごとに180kgまで載せてよい」という上限のルールだと思って読み始めました。でも条文の最初の一文で、その読み方が違うと分かりました。原文はこう始まります。
建築物の各部の積載荷重は、当該建築物の実況に応じて計算しなければならない。ただし、次の表に掲げる室の床の積載荷重については、それぞれ同表の(い)、(ろ)又は(は)の欄に定める数値に床面積を乗じて計算することができる。
原則は「実況に応じて計算」で、表の数字はその代わりに使ってよい設計用の値です。しかも使い方は「床面積を乗じて」、つまり部屋の面積全体に掛け算して、部屋ぶんの合計を出すという使い方です。1㎡のマス目ごとに180kgの検問がある、という書き方はどこにもありません。
江戸間6畳 (内寸261×352cm・9.19㎡) で掛け算すると、183.55kg × 9.19㎡ = 部屋全体で約1,686kg。床の設計は、この部屋にぜんぶで1.7トン近い「後から載るもの」を見込んでいる、という意味になります。1㎡あたりの上限ではなく、部屋の平均の話だったわけです。

カラーボックス1本の足元は、ほぼ「書庫」でした
では実際の本棚の足元は、どれくらいの密度になっているのでしょうか。メーカーが公表している数字だけで計算してみます。
アイリスオーヤマの3段カラーボックス (CX-3) の公表値は、外寸が幅41.5×奥行29×高さ88cm、耐荷重が棚1枚あたり約30kg・全体約80kg、本体重量が約8.4kgです (アイリスプラザ 商品ページ)。メーカーが認める上限まで本を詰めると、合計88.4kgが0.12㎡の足元に載ります。
これを1㎡あたりに換算すると、735kg/㎡。床の設計用の値183.55kg/㎡の、ちょうど4.00倍です。
比べる相手として面白い数字が、国の側にありました。国土交通省の官庁施設の設計資料には用途ごとの床荷重の一覧があり、「一般書庫、倉庫等」の床は7,800N/㎡ = 795.38kg/㎡で設計するとされています (床荷重凡例)。住宅の居室の4.33倍です。つまり、満載のカラーボックス1本の足元 (735kg/㎡) は、国が「書庫」に使う数字 (795kg/㎡) とほぼ同じ密度になっています。

同じ資料には、事務室に耐火書架のような重量機器を置く場合は「当該部分について、床荷重の割り増しを行う」とも書かれています。本をぎっしり並べた棚が普通の床の想定より重いことは、国自身が認めて、設計で先回りしているわけです。蔵書家の不安には、ちゃんと根拠がありました。
それでも1本で床が抜けないのは、平均の話だから
足元だけ見れば書庫並み。それなら、なぜ世の中のカラーボックスは床を抜かずに立っているのでしょうか。ここで、さっきの「床面積を乗じて」が効いてきます。
満載のカラーボックス1本は88.4kgで、6畳の部屋全体に見込まれた約1,686kgの5.2%にすぎません。この枠を満載カラーボックスだけで使い切ろうとすると19本必要で、そのときの設置面積は2.29㎡、部屋の25%になります。壁一面どころか、部屋の四分の一が本棚になる計算です。

白状すると、この図を作りながらわたしは一度、逆のことを書きかけました。「19本も置けば先に床の広さが尽きる」と。でも数えると、19本の面積は部屋の25%で、このサイトで前に書いた「家具は床の1/3まで」という目安 (床が見える面積の記事) にはまだ届いていません。先に尽きるのは床の広さではなく、荷重の設計枠のほうでした。本は、見た目より先に重さで部屋を使い切ります。
ただし、ここまでの計算はあくまで設計に使う「みなし値」どうしの比較です。実際の建物の余裕は、構造・築年・部屋のどこに置くかで変わります。この記事が言えるのは「180kgという数字の正しい読み方」までで、具体的な建物で不安があるときは、管理会社や設計者に確認するのが正しい順序です。とくに水槽やピアノのような数百kg級のものは、施行令の側も「実況に応じて計算」する対象として扱っています。
心配を減らす置き方は、「分けて、低く」
読み方が分かると、置き方の答えも1つ出ます。同じ本でも、1本に高く積むより、2本に分けて低く置くほうが、足元の密度は下がります。
さっきのカラーボックスで計算すると、1本に80kg詰めたときの足元は735kg/㎡。同じ80kgを2本に40kgずつ分けると、402kg/㎡で0.55倍になります。総重量は1gも変わらないのに、床の1点に集まる度合いだけが半分になる。密度は「重さ ÷ 面積」なので、接地面積を2倍にすれば必ずこうなります。

そしてこの「分けて、低く」は、このサイトで繰り返し書いてきた置き方と同じ形をしています。腰高に分けた棚は座ったときの囲いになり、立てば視線が抜けます (囲う家具の高さの記事)。低くて奥行きのある棚は地震でも倒れにくくなります (倒れにくい家具の寸法の記事)。視線にも、地震にも、床にも、答えが同じ側にあるというのは、腰高の囲いという方法の強さだと思います。
まとめ
「1㎡あたり180kg」は、建築基準法施行令85条の1,800N/㎡ (=183.55kg) を丸めた数字で、しかも条文には床用・大梁用・地震用の3つの数字が並んでいます。使い方は「床面積を乗じて」部屋ぶんの合計を出すもので、1㎡の枠ごとの上限という書き方は条文にありません。
満載のカラーボックス1本の足元は735kg/㎡で、国が書庫に使う密度とほぼ同じ。それでも部屋の平均で見れば5.2%です。検索結果が80冊から6,000冊までバラつくのは、この「足元の密度」と「部屋の平均」のどちらを見るかが、ページごとに違っていたからでした。
そして、心配を減らす置き方は計算からそのまま出ます。分けて、低く。同じ80kgでも密度は半分になり、囲いは腰高になり、地震にも強くなります。物を減らさずに済ませる方法は、床に対しても成立していました。
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